十人十色

□.
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刀剣男士と接触した日から数日がたった。

私の姿はまた少し成長し、大体3歳くらいにはなったようだ。

今回は寝ている間に成長したようで、前回のように急に意識を失って倒れることはなかったのでよかったが、起きた時服がキツくなっていたのには驚いた。


「主や…。」

「…。」

「主や。また“贈り物”があるぞ。」

「………。」


私は障子を少し開けて片目で覗けるくらいの隙間をつくる。

ちなみに、結界は障子の外に張ってあるので障子を開けても外から入ることは出来ないのだ。

障子を開けた目の前には三日月宗近がいた。

真っ先に現れそうな小狐丸は今日は出陣しているのでおらず、こんのすけも政府の方の用事とやらで今は外出中だ。

小狐丸と違って三日月宗近はわかっているのか、いつもいつもこんのすけがいないタイミングに来るので、鉄壁のこんのすけガードに追い返されることがない…三日月宗近あなどなれない…。


「ほれ、早く生けてやらんと枯れてしまうぞ。」


三日月宗近の手には野花の可愛らしい花束があり、こちらへと差し出してくる。

私に接触をしてきた三日月宗近、小狐丸、五虎退の誰かが置いていったものだと誰もが思うだろうがそうではないのだ。

きっかけは私が1人で政府からの書類を読んでいた時だった…。




母屋とは反対側の小さな丸窓の障子を開けて風通しをよくしていた時、突然の暴風に書類が2枚ほど外に飛ばされてしまった。

外へ出て探しに行くわけにもいかないので、こんのすけが帰ってきたら事情を話して探してもらうしかないと諦めていた。

しばらくすると、ギシリと床の軋む音が母屋側の廊下から聞こえたので急いで開けていた丸窓の障子を閉める。

廊下に意識を集中してみるが誰もいなさそうだ。

障子をほんの数ミリ開けて外の様子を窺うが、誰もいないようだ。


「(誰かが去った音だったのかな…?
え、だとしたらいつからいたんだろ…怖…。)」


少し恐怖を感じながら障子を閉めようとした時、外に何か置いてあることに気付いた。

それは先程飛ばされてしまったはずの書類だった。

重石替わりなのか、書類の上にはいつもこんのすけが持って来てくれるはずの私宛ての荷物まで置いてある。


「(お…おぉ…?)」


ゆっくりと障子を開けて慎重に周りの様子を窺うが、近くには誰もいなさそうだ。

素早く書類だけを引き抜くが、荷物は少し考える。


「(何か仕込まれてたりしないよね…。
爆弾みたいな…。)」


どうしたもんかと考えていると声をかけらる。


「おや、ぬしさま?」


私は驚いて肩をビクリと揺らし部屋へ引っ込んで障子を閉めてしまった。

人に懐いていない動物かよ…自分でつっこまずにはいられなかった。

再び障子を少し開けると笑顔の小狐丸が廊下に座っていた。


「ぬしさま、お忘れ物ですよ。」


私宛ての小さなダンボールを目の前に差し出すが、私はそれを素直に受け取れない。


「……それ、だれがもってちたんですか…?」

「私では……………私がお持ちしました。」

「うそ、よくない。」

「…ぬしさまは鋭いですな。」


小狐丸も誰が持って来たのかは知らないと言っていたが、口元が笑っていたので何か知っているのだろうと確信した。

面倒なことになりそうなので深く聞くのはやめることにしたけど…。

結局荷物には何も仕込まれておらず、本当に誰かがここまで運んでくれただけだったようだ。

その日からこんのすけが荷物を取りに行くより先に誰かが部屋の前まで荷物を運んでくるようになったのだ。

そしてある時、折り紙が無くなりそうになったことに気付き、練習用に何でもいいから代用の紙を用意しないと…とつぶやいたところ、数十分後には部屋の前に紙の束が用意されていた。

またある時は、こんのすけに寝不足を指摘され寝不足にはアロマなどの香りが良いものを枕元に置いて寝ると良いとこんのすけから聞くと、その日の夕方にはとても良い香りのする沈丁花が用意されていた。

ちなみに、沈丁花はかなり気に入っている。

それからは荷物も無く、困った事が無い日でも部屋の前に小さな花が置かれるようになったのだ。

私はこの荷物を取って来てくれたり必要なものを用意してくれたりする人を、こっそり“妖精さん”と呼んでいたりする。

こんのすけはストーカーだと言っているけど…。







「ここに置くぞ。」


結界ギリギリに花束を置いた三日月宗近は障子から離れた場所に腰を下ろす。

その様子を確認し、私は花束をさっと受け取った。

うん、今日も可愛らしい花だ。

花瓶の中の枯れてきた花を取り除き新しい花を入れなくてはと考えていると、とても嫌な音が聞こえた。


ーーブーン…


「っ…!!!」


私の持つ黄色い花にはなんと蜂が付いていたのだ。


「うそっ…ちょ…むりっ…!!!」


どちらかと言うと虫は平気な方だが、蜂は違う。

刺されるという恐怖がある。


「まって…まって…だめだめだめ…!!!」


手に持っていた花束は手放し、蜂から距離を取るが何故かこちらへ飛んでくる。

何か怒らせてしまったのかもしれない。


「主?どうかしたのか?」


さすがに私の慌てた独り言を不審に思ったのか三日月宗近が声をかけてくる。

この部屋にいては逃げ場が無い。

選択肢なんて無かった。

私はダッシュで入口の障子まで走り外へ飛び出した。


「主…!?」


外へ飛び出すと障子の前で腰を下ろしていた三日月宗近に突進してしまい、突然のことに三日月宗近も私を支えるので精一杯だった。


「は、はやく…にげっ…!!」


私の慌てる原因に気が付いた三日月宗近は私を庇うようにその腕で包み込んだ。


「な…なにちて…!?」

「主!!!」


これでは三日月宗近が刺されてしまうともがこうとした時、聞いたことの無い誰かの声が聞こえた。

そして何かを叩くようなバシンッという音が響いた。


「はっはっはっ…。ご苦労だったな。」

「…貴様、わざとだな?」

「何を言う、俺は素早く動けぬのでな。
ほれ、小夜も殺気をしまったらどうだ?」

「…うん。」


周りの会話に嫌な予感しかしなかった。

そっと三日月宗近の腕から顔を覗かせると、刀剣男士が2人いた。

1人は倒れていた私を拾ってくれたと言う小夜左文字。

そしてもう1人は……


「お怪我はありませんか?」

「へしだ……。」

「は…?」

「あ、いえ、はい。だいじょぶです。」


思わずボソリと思っていたことが口から漏れてしまったらしい。

へし切長谷部…特徴のある名前だったので記憶に濃く残っていたのだ…にっかり青江とかも…。

蜂を叩いたのであろうハエたたきの様なものを手にしていたへし切長谷部は、私に怪我が無いことがわかるとホッとした顔をし、続いて申し訳なさそうな顔を向けた。


「申し訳ございませんでした…まさか花に蜂が付いていたとは気付かず主を危険な目に…。」

「あの…ごめんなさい…。」


頭を下げるへし切長谷部とそれに続いて小夜左文字も頭を下げた。

今の言葉からすると、この2人が妖精さんの正体なのだろうか…?


「…あなたたちが…花を…?
ちょるいとか…にもつとかも…?」

「…はい。」

「…うん。」


やはりそうだった。

妖精さんは2人もいたのか…。

何も言わない私に2人は居心地悪そうにしている。

別に怒らないのに…。


「…いつも…あいがとうございます。」

「「!!」」


ただお礼を言っただけなのだが、へし切長谷部は目にうっすら涙を溜めて深く頭を下げ、小夜左文字は照れているのか顔を赤くしてもじもじしている…可愛い。

そしてまた桜が舞っていた。

こんのすけから聞いた話によると、この桜の現象は刀剣男士達が嬉しい時や幸せな時などとても気分が良い時に希に出るのだとか…。

今はお礼を言われて嬉しいってことなんだ…なんかこっちが恥ずかしい…。


「今日の主はよく話すのだな…よきかな、よきかな。」

「(はっ!!)」


すっかり忘れていたが私は三日月宗近の膝の上に座ったままだった。

我に返った私は三日月宗近の腕から抜け出し自室へ飛び込んだ。

そのまま捕まえようとすれば出来ただろうにそうしなかったのは、私をからかっているのだろう…。

次の日から私の部屋の前にへし切長谷部が居座りつくようになったのは言うまでもない。





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