十人十色
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ーーー最近、昔の夢を見る。
まだ赤ん坊の私。
おじいちゃんと折り紙をする私。
絵を描いて褒められる私。
かけっこで転んで泣く私。
初めてのおつかいをした私。
神社の裏でこっそり捨て猫を育てる私。
いじめっ子の男の子と喧嘩をした私。
母の手伝いでご飯を作った私。
不思議なことに刀剣男士達と関わってからほぼ毎日、私は思い出のように昔の夢を見るようになったのだーーー。
「なんてこった…。」
「これはこれは…すぐに新しいものを手配しましょう!」
事件発生。
炊飯器が壊れました。
こんのすけに夢について何か意味があるのか聞いてみようと思った矢先にこれだよ…。
炊飯器はボタンを押しても音は鳴るが機動しない。
無茶な使い方はしていないのにな…。
パンはあるからこれからの食事にすごく困るという訳では無いのだが、この炊飯器の中には既にといだ米が入っている。
冷凍庫で保存する用も考えての多めの量だったので、捨てるわけにはいかない。
鍋で炊けばいいのだが、残念ながらこの部屋にはコンロは無い。
電子レンジと炊飯器と小さめの冷蔵庫と小さな洗面台くらいしかないのだ。
ここに来た当初、電子レンジも炊飯器も冷蔵庫も無かった状態を見た時は政府への怒りを通り越して呆れたものだ。
子供の姿では調理は難しいとは思うが、成長して元の姿に戻った時のことも考えてほしい。
刀剣男士達との接触は危険なはずなのに、政府は離れに台所も用意してくれなかった…台所は母屋にしかないのだ……政府何考えてんだコノヤロー…。
「主、どうかされたのですか?」
「おぉ、へし切長谷部様いらしていたのですね。」
こんのすけが少し障子を開け、へし切長谷部と話をする。
先日の蜂騒動のことをこんのすけに話したところ、刀剣男士と接触したことに対して怒ってくると思っていたがそうではなかった。
まずは私の無事を喜び、そして部屋へは入れないが心を開いてきている刀剣男士への接触を望むのであれば無理には止めないと言ってきたのだ。
心境の変化に驚いたが、前々から考えていたらしい。
理由としては蜂騒動の時私を守ってくれたこと、私の手伝いをしようとしていたこと、桜が舞ったこと、私に会いに来る時は得物であり本体である刀を手にしていなかったことだ。
今考えれば、確かに彼らは内番服ではないのに刀を持っていなかった気がする…。
今までこんのすけが警戒していたのは、三日月宗近が私を外へ誘き出すような行動をとったこと、小狐丸が馴れ馴れしくて気に食わなかったとのことだ……最後のは私情だよね。
五虎退の場合は一期一振を警戒していたからだとか。
小狐丸に対してこんのすけは相変わらず厳しいが、本当は私と刀剣男士達が仲良くなって嬉しいらしい。
先代の審神者は酷かったが、初代の審神者はとてもいい人だったそうで、あの頃のようになってほしいと願っていると悲しそうに笑っていた。
「主様!厨へ向かいましょう!」
「く、くりや…?」
「台所でございます!
どうやら炊飯器があるようですぞ!」
「おぉ…!」
てっきり母屋はお釜使ってるのかと思ってたけど、案外近代的らしい。
こんのすけの移動用空間で厨まで…といきたいところだが、成長した私の今の体ではギリギリ通れなくなってしまったのだ。
まだ会ったことの無い私を敵視している刀剣男士と鉢合わせになってしまうかもしれない。
とても危険なことをしようとしているのだが、へし切長谷部は生き生きとしていた。
「必ずや主をお守りします!!
この長谷部にお任せ下さい!!」
「……おねがい、します…。」
何だかとても心配だった。
ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー
ー
「さぁ、主着きましたよ!」
「(は、早く降ろしてぇっ…!!)」
へし切長谷部のお陰で他の刀剣男子と鉢合わせすること無く、母屋の厨まで無事辿り着くことが出来たのだが、私は帰りたくて仕方が無かった。
25歳にもなって抱っこされてしまったのだ。
確かに、見た目は3歳くらいだし歩くスピードも遅いから仕方ないとは思うが、これは恥ずかしすぎる。
私を抱えたままへし切長谷部が厨の中へ入ろうとしたが足を止めた。
へし切長谷部の上機嫌だった表情が険しくなる。
「しばしお待ちを…。」
その場に降ろされ、私とこんのすけは厨の外から中に入って行ったへし切長谷部の様子をこっそりうかがった。
「こんな所で何をしている、燭台切。」
「あぁ、長谷部君…。」
厨には刀剣男士がいた。
使うことが無いから厨付近には刀剣男士が近付くことは無いと聞いていたはずなのに…。
へし切長谷部が気付いてくれなければ危なかった。
今はへし切長谷部が壁となって顔は見えないが、全体的に黒っぽい服装だ。
確か燭台切光忠は海賊みたいな眼帯を付けていたような…。
「ちょっと気になってね…。」
「気になる…?」
「前の主は僕達に食事を作らせることはしなかっただろう?
えっと…かっぷめん?とか、れとると?ってものを食べてたから。あと、外食だったし。
だからさ、食べるってどんな感じなのかなって思ってさ…。」
燭台切光忠の言葉に私は驚いた。
今の会話からすると彼らは食事を取っていないことになる。
驚いた表情のままこんのすけを見ると、私の意図がわかったのか小声で刀剣男士は食事を取らなくても大丈夫な存在なのだと教えてくれた。
何だそれ…神様だから…?
食べる幸せを知らないだなんて…勿体無い…。
「作り方もわからないからどうしようもないんだけどね…。
長谷部君こそどうしたの?」
「いや……大倶利伽羅が馬小屋の方でお前を探していたようでな。」
「伽羅ちゃんが?
わかったよ、ありがとう。」
へし切長谷部にお礼を言うと、燭台切光忠は私のいる入口ではなく、外へ繋がる勝手口から出て行った。
燭台切光忠を私のいる廊下へ行かせないために、へし切長谷部はわざと馬小屋と言ったのかもしれない。
「主、もう大丈夫ですよ。」
へし切長谷部は笑顔だったが、私は先程の燭台切光忠の悲しそうな会話を思い出してモヤモヤしていた。
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