十人十色

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審神者部屋に粟田口の短刀達が集まっていた。


「おや、これは賑やかだな…。」

「よう、旦那。
姫に何か用だったか?」


一番障子の近くに腰掛けていた近侍の薬研君が三日月に話しかける。


「いやなに、少し顔を見に来ただけでな。
しかしこんなに先客がいたとはな…はっはっはっ。
して、何をしているんだ?」

「折り紙でございますよ!」


七歳の姿に成長した私の膝の上に乗っているこんのすけが、机からひょっこり顔を出す。


「おぉ、こんのすけ、久しいな。」

「はい、お久しぶりでございます!」

「しごとがひとだんらくついたそうですよ。」


そう言って私が頭を撫でればこんのすけは気持ちよさそうな顔をする。


「しかし驚きました!
久々に来てみれば本丸中ちょっとした穢れもなく、ピカピカになっていたのですから!!」


それは先日の幽霊騒動のせいだ。

出陣から帰ってきた青江はアレらを斬り、遠征から帰ってきた石切丸はお祓いをしてくれたのだ。

かなり念入りにしてくれたらしく、目には見えないがとても綺麗になったのはわかった。

あの日から数日はまんばを見る度に身体が強ばってしまい、とても申し訳なかった…。

私の態度に落ち込むまんばを堀川君や山伏が励まし、まんばは私と会う度にフードを取る行動をすることで顔を見せて私を安心させる行動をとっていた。

しかし、毎回顔色が悪くなるので止めさせようとした時は、なかなか諦めてくれなくて驚いたものだ。

その時は近侍のローテーションの順番を替え、まんばを近侍にして常に傍にまんばがいることで、私の気持ちも落ちつきを取り戻し問題は解決したのだ。


「何はともあれ、主様がご無事で何よりです!!」


嬉しそうに顔をスリスリと擦りつけてくるこんのすけが可愛くてしょうがなく、ニヤけるのをどうにか我慢し、こんのすけを撫でる。


「ふむ…やはり姫は折り紙の才があるな。
主の見込み通りだな。」


机の上にある折り紙の中から、私が折った鶴を手に取った三日月が呟く。


「おじいちゃんが?」

「うむ、姫に折り紙を教えたのは主であろう?
主は何かあった時のために、折り紙に霊力を込める術を姫に教えていたはずだったからなぁ。」


そうだったんだ、知らなかった…。

てっきり、家の神社の折り紙の奉納のことがあって折り紙を教えてくれていたものだと思っていたけど、霊力を込める為の練習でもあったんだ。


「あれ?
そう言えば三日月さん、よく姫様が折ったものがわかりましたね?」


秋田君の言葉に私も他の短刀達も納得する。

確かに机の上には私だけではなく、他の子が折った折り紙もたくさんあるにもかかわらず、三日月は私が折ったものをピンポイントで手に取ったのだ。


「はっはっはっ…。
なに、姫の霊力を感じたものでな。」

「え!こめたつもりはなかったのですが…。」

「ん〜?
あ!本当だ!!少しだけ姫様の霊力感じるよ!」


乱ちゃんが折り鶴を手に取って驚いていた。

ほんの少しだが、無意識に霊力を込めてしまっていたようだ。


「あの…、この虎君達はどんな効果になるんでしょうか…?」


虎の折り紙を持った五虎退君がおずおずと聞いてきた。

効果…。

確かに今までの霊力を込めた折り紙は目的があって、念じながら霊力を込めていた。

では、今回の様に何も考えずに霊力を込めたものはどうなるのか…。


「………わからないからやってみますか。」


こんのすけも予想がつかなかったのか何も言わず、短刀達と一緒になって興味津々なのでやってみるしかない。


「えーっと…どうすればいいかな…?」

「触れてみてはいかがでしょうか?」


平野君の提案に、虎の折り紙にちょんと触れてみた。


ーーカサッ…


『!?』


すると、一瞬虎の折り紙が動いたように見えた。


「い、今!動いたよな!?」

「そのように見えました!」

「こりゃ驚いたな…。」


一番に声を上げたのは厚君で、私の隣にいる前田君も同意の声を上げた。

三日月と一緒にその光景を覗いていた薬研君も驚いた顔をしている。


「姫や、息を吹きかけてみてはどうだ?」

「そうです!主様息吹ですよ!!」

「え?あ、そっか。」


三日月の提案にこんのすけがペシペシと叩くので、驚いていた私は我に返って折り紙に息を吹きかけてみた。

前にこんのすけに息吹には力があると教えてもらったことがあるからもしかしたら…。


ーーカサッ…


『!!』


ーーカサッ…カサッ…


『おぉー!!!』


私が折り紙に息を吹きかけると、先程とは違って折り紙の虎は動き出したのだ。


「姫様!こっちもやって!!」

「こっちもお願いします!!」


乱ちゃんと秋田君にそれぞれ花と鶴を差し出される。

同じ様に息を吹きかければ花はヒラヒラと宙を舞い、鶴は羽を動かし飛び始めた。


「主様素晴らしいです!!!」

「わたしがやったなんて…まだしんじられない…。」


こんのすけが膝の上で喜んでいるが、私は呆然としながらその頭を撫でていた。

動物の折り紙はその動物の様な動きをし、生き物ではないものは宙を舞ったり、何かしら動きをしていた。

こんのすけ曰く、もっとちゃんと霊力を込めれば本物のような大きさになったり、本物の道具の代わりとして使えたり、式神のように使役することが出来るかもしれないとのことだ。

何それ凄い…。


「初代様は折り紙は苦手なようであまり使っておりませんでしたが…、主様の折り紙の才は初代様より上のようですね!」


私がここに来た頃、刀剣男士達に霊力を渡す為に折り紙を提案してこんのすけが驚いていたのは、おじいちゃんも使っていたからなのか…。


「はっはっはっ…。
やはり姫は凄いなぁ…。」


そう言って三日月は私の頭を撫でた。

あれ…?


「もしかして…むかし、こんなことありました…?」

「…はて、どうだったかな…?
それより姫や、“お月さま”を折ってはくれんか?」

「三日月宗近様、それはいくら主様でも難しいのでは…」
「いいですよ。」

「出来るのですか!?」


驚くこんのすけに笑いがこぼれる。

お月さま…三日月なら昔折ったことがある。


「皆、おやつ持ってきたよ…って、何だいこれ!?」


やって来たのは饅頭の乗ったお盆を持った光忠だ。

動く折り紙達に驚いている。


「姫の折り紙の才が優れていると話していてな。」


笑いながら説明をする三日月の横で、出来上がった折り紙の三日月に息を吹きかけてみれば、フワリと浮き上がり三日月の顔の高さまで上がるとピタリと止まった。

三日月の横に三日月…。

同じことを考えたのか、光忠が目の前のダブル三日月を見て少し吹き出していた。


「なるほど、そういうことだったんだね。
あ、もしかして僕達の記憶が戻る前、三日月さんは紙風船を見つめていたけど、あれって姫ちゃんのこと少し思い出してたの?」

「そうだったんですか!?」

「なんと!?」


飛んできた鶴を手に乗せて三日月に問いかける光忠の言葉に、饅頭を食べていた私もこんのすけも驚く。


「いや、思い出せはしなかったな…。
ただ、あの紙風船に込められた霊力に懐かしさを少し感じたのは確かだ。」


そんなことがあったんだ…。

こんのすけが言うには、三日月はなかなか鍛刀出来ないレアな刀剣男士で、この本丸内でもかなりの強さらしい。

だから記憶を消されたにもかかわらず、紙風船を見て懐かしいと感じたのかもしれないのだ。


「へぇー…すごいですね!」

「はっはっはっ…よきかなよきかな。」


喜ぶ三日月だったが、私は誰かがこちらへ向かって来る足音に気付いてしまった。

走らず…でも素早く歩く足音…これは…。


「あ、長谷部く…」
「三日月宗近ーー!!!
貴様今日は馬当番だろうがっ…!!!」

「あなや…見つかってしまったか。」


長谷部だ。

近くにいた光忠の声など聞こえていないようだ。

いきなり現れ怒鳴ったことを、いつものキリッとした態度で私に一言謝ると、三日月を引きずるようにして連れて行ってしまった。

私はその光景をただ呆然と見ているだけだったが、よくあることらしく短刀達も光忠も苦笑いをしていた。


「てっきり、うまとうばんはおわっているものだと…。」

「あれ、そういえばさっきの折り紙は…?」


三日月の横に浮かんでいたはずの折り紙の三日月が無くなっていたことに、光忠が気付く。


「あの…さっき、三日月さんについて行ってしまいました…。」

「つ、ついていった…?」

「驚いたね…三日月さんのこと気に入ったのかな?
あ!こんのすけ食べすぎだよ!」


五虎退君の言葉に驚くばかりだ。

ちなみに、こんのすけは饅頭を食べすぎたらしく、光忠に捕まっている。

動く折り紙のことより饅頭でいいのか、政府の狐よ…。


「(うーん…三日月同士だから?)」


もしかしたら、この折り紙達は特別指示がなければ意思があるように動くのかもしれない。


「姫ちゃんも食べすぎ!!それ何個目!?」

「うっ…。」





余談
「刀剣男士達に霊力を渡す為に折り紙を提案してこんのすけが驚いていたのは…」
について→5話

光忠の「もしかして僕達の記憶が戻る前、三日月さんは紙風船を見つめていたけど、…」
について→4話


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