十人十色

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過去(三日月宗近)
※半分以上が初代審神者の頃の話です。
38話を読んでからの方がわかりやすいです。
番外編(歌仙兼定)の時と同じように、刀剣男士の姿は見えないけど、男士から触れることは出来、人間の名前は聞こえない設定です。






「神様…神様どうか、あの子をお護り下さい…。」


まだ日が昇り始めたばかりの早朝、女が一人参拝していた。


ーーーーーーーーーー


気持ちのいい春の陽気。

部屋の障子は開け放ち、時折桜の花びらが風に運ばれ部屋へ入ってくる。

そんな昼下がり、現世に来ていた三日月宗近は主の孫である少女の側で静かに腰掛けていた。

しかし、その姿は少女には見えていない。


「ん〜…。」


難しい顔をして少女が一生懸命取り組んでいるのは折り紙。

祖父から貰った折り紙の本と、手元の折り紙を見比べながら頑張っている。

少女の周りには紙風船、カエル、手裏剣、かぶと、やっこさんなど少女が折った様々な折り紙が転がっており、三日月宗近はそれらを見つめて、ふむ…と頷く。


『主の見立ては正解だったようだな…。』


少女の折った折り紙には微量ながらも霊力が込められていた。

霊力の強い少女は良くないモノに目を付けられることが多く、刀剣男士達が交代で常に護衛をしているのだ。

そんな孫を心配した祖父である審神者は、少女の実家でもある神社で行っている、折り紙祈願に目を付けた。

絵馬の代わりに折り紙に願い事を書き、折り紙を折って奉納するというものだ。

まだ文字書きが上手く出来ないほど幼い頃から霊力を込める練習をするには、折り紙が一番だと審神者は思ったのだ。

生まれた時から折り紙が身近にあったからか、元々器用なのか、少女は周りの子供達より折り紙を折るのが得意だった。


「できた!!」


嬉しそうな顔の少女の掌には折り鶴が乗っていた。

少し歪だが、初めてにしては上手く出来ている。


『ほぉ…鶴か。
鶴にそんなに喜ぶとは、少し妬いてしまうなぁ…。』

「つぎは〜……」


次は何を折ろうか本を見つめながら悩む少女。

その時、少し強めの風が吹き、出来上がった折り紙達がコロコロと転がってしまう。


「あっ…!!」


急いで拾いに行く少女が本から離れた隙に、三日月宗近はこっそり折り紙の本のページをめくった。


「おつきさま…?」


折り紙達を抱えた少女が戻って来ると、本は“お月さまの折り方”と書かれた、三日月の折り方のページが開かれていた。

折る気になったのか、少女は黄色の折り紙を取り出して本との睨めっこを再開する。

その様子を三日月宗近は嬉しそうに見つめていた。


「できた、おつきさま!!」

『おぉ、よく出来ているなぁ。』


折り紙の三日月が出来上がって喜ぶ少女の頭を、三日月宗近はつい撫でてしまう。

少女は驚いて振り返り、一瞬目が合ったように思えたが、少女の瞳には三日月宗近の姿は映っていなかった。


「??」

『はっはっはっ…すまんな、姫や。』


自分の頭に触れて不思議そうに首を傾げる少女に、三日月宗近はまた笑みをこぼす。

再び風が吹き、折り鶴が生きているかのようにカサカサと動いたのを見て、少女は先程の頭を撫でられたことなどすっかり頭から消えてしまったようだ。

もう一度動いてほしいのか、少女は折り紙達に息を吹きかけた。

少し強い吹きかけに折り紙達は散らばるように見えたが、ピタリと動きを止め、カサカサと動き出し宙へフワフワと浮き始めた。


「!?
…マ、ママァーーー!!!」

『あなや…。』


驚いた少女は母親のもとへ走り出し、残った三日月宗近も動いた折り紙達を見て驚いていた。


『これこれ、あまり姫を驚かすでない。』


三日月宗近が折り紙達にそう声をかけると、折り紙達は大人しく畳の上へと戻る。


『嬉しいのはわかるが、姫にはまだ早すぎるからな…。
無闇に動くものではないぞ?』


返事をするかのようにカサリと動いた折り紙達はそのまま動かなくなった。

しかし、折り紙の三日月だけはフワリと浮かび上がり、三日月宗近の目の前でピタリと止まる。


『お主と同じ三日月だ、よろしく頼む。』


折り紙の三日月は三日月宗近の膝の上にぽとりと落ちる。


『はっはっはっ…これは気に入られてしまったようだな。』


三日月宗近は膝の上の折り紙の三日月を手に取り、そっと自身の袂にしまった。


「はいはい、ママが見てみるから。」

「ほ、ほんとだよ…!?」


その直後、少女が母親を連れて戻って来た。

先程の折り紙によっぽど驚いたのか、母親の後ろに引っ付いて離れようとしない。


「うーん…動いていないみたいねぇ。」


母親は折り紙を1つ手に取り観察してみるが、何も変化はない。


「あ!おつきさまがいない!!」

「お月さま作ってたの?」

「そう!さいごにつくった!」

『すまんなぁ…。』


親子のやり取りに微笑みながら、貰ってしまったことを謝る三日月宗近だが、悪びれた様子はなくその表情はとても楽しそうだった。


「そうねぇ…。
もしかしたら、お月さまの神様かもね?」

「おつきさまの…かみさま?」

『!!
…あなや。』


母親の発言に三日月宗近は驚く。


「お月さまの神様がーーをびっくりさせたかったんじゃないかな?」

「えー…?」

「神様はずっとーーを護ってくれているから、きっと退屈でーーと遊びたくなったのよ。」

「んー…。」


母親の言葉に、少女は納得出来ないような表情をする。

三日月宗近は、母親の勘の鋭さに驚きつつもそのまま2人の話に耳を傾けていた。


「ママはね、ーーが赤ちゃんの頃に神様に抱っこされているところを見たことがあるのよ?」

「ほんと!?
どんなかみさま?
ながいおひげのおじいちゃん?」

「ママには神様は見えなかったの。
でも、ーーが抱っこされて喜んでいるところを見たのよ?」

『ふむ…。
歌仙か…?』


三日月宗近は顎に手を当て母親が目撃したのは誰か考えるが、そんな話は聞いた覚えがなかった。

少女が赤ん坊の頃に抱っこをした刀剣男士は何人かいるはずだが、それは祖父である審神者と一緒の時で、母親はいないはずだ。


「みえなかったのに、なんでかみさまってわかったの?」

「ーーが泣いてたからママがお部屋に行ったら、ーーったら泣き止んで笑ってたのよ?
それにね…浮いてたの!」

「!!」

『はっはっはっ。』


内緒話のようにこそっと話す母親の言葉に、目を大きく見開いて驚く少女の顔を見て、三日月宗近は笑わずにはいられなかった。


「わ、わたし、とんでたの!?」

「ふわふわ〜ってね。
ママびっくりして声も出なかったわ。」


そんな光景を見たにもかかわらず、取り乱すことなく少女を育てた母親は、さすが神社の後継ぎに嫁いだだけのことはある。

境内にいれば霊力の強い娘に悪いモノが寄って来ないと感じ取っていたのだろう。


「お外で怖いことがあってもね、神様もパパもママもおじいちゃんも、皆ーーを護るから大丈夫よ。」

「うん…!!!」


ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー



「母君、すまなかったな…。
姫を護れず、そなたから遠く離してしまった…。」


日が落ち始めた頃、縁側に腰掛けていた三日月宗近は折り紙の三日月を手にし一人呟いた。

たくさんの折り紙を…三日月を折る審神者を見て、昔のことを思い出していたのだ。

どうすることも出来なかったとは言え、父親、母親、初代審神者、何より審神者本人にとても申し訳なくなった。


「あ、三日月?
もうすぐ夕はんなので、みんなひろまにあつまってますよ。」

「…姫。」

「?」


手招きをされ近付くと、三日月宗近は審神者の小さな手を掴んで引き寄せると自身の膝の上に座らせた。


「………わたしのはなしきいてました?
もうすぐ夕はんですよ。」

「なに、少しくらい大丈夫だろう。
しかし、姫はまた少し重くなっ…」
「大きくなったといってください。
せいちょうしてるんですから、あたりまえです!」


笑いながら謝る三日月宗近は反省しているようには見えない。


「あれ、そのおりがみ…。」

「ん?
あぁ、馬当番の時に気付いてな…。
どうやら俺に付いてきたようだ。」


そう言って審神者に折り紙の三日月を渡すが、審神者は受け取らなかった。


「三日月にあげます。
この三日月もあなたを気に入っているようなので…。」

「はっはっはっ。
そうかそうか…では頂くとしよう。」


内番服のポケットに折り紙の三日月を大事にしまった三日月宗近は、審神者の頭を優しく撫でる。


「姫や…今、幸せか…?」


審神者からは見えない、審神者を見つめる三日月宗近の表情は愛しそうであり、悲しそうでもあった。


「そうですね…。
おいしいごはんがたべれて、おふろに入れて、あたたかいふとんがあって…しあわせかときかれると…どうでしょう…しあわせなんでしょうかね…。」


うっすらと見え始めた月を見上げて審神者はぼんやりと考える。


「ただ、みなさんがけがをせず、へいわでへいぼんな日じょうがつづくなら…しあわせかもしれませんね。
あ、がい出とかして、かいものもしたいですね。」

「はっはっはっ…そうかそうか。
ならば、今度こそ俺達が姫を幸せにしてやらねばなぁ。」


三日月宗近も審神者と同じように空の月を見上げた。


「…なぁ、そうは思わんか?」

「ん?」


三日月宗近の最後の言葉を疑問に思い、くるりと振り返ると、廊下の曲がり角で口元を押さえてふるふると震えている御手杵と、目元を押さえて天を仰ぐ蜻蛉切の姿があった。


「御嬢、俺は刺す以外能が無いけど荷物持ちくらいは出来るから、買い物いっぱいして美味いもんいっぱい食おうな…!!!」

「姫様、どうぞご安心ください!!
我々はもっと強くなります!!
そして必ずや貴方のいる本丸へ帰って参ります!!!」

「えーと…はぃ…。」


二人のすごい勢いに審神者は戸惑いつつ返事をし、そのまま涙を流す御手杵に抱えられ、広間へと走って連れて行かれた。

他の刀剣男士達に報告をするに違いない。

御手杵の審神者の抱え方に、落とすのではないかとハラハラしながらも涙目の蜻蛉切もそのあとを追った。


「はっはっはっ…さて、俺も行くかな。」


ゆっくりと腰を上げた三日月宗近は再び空を見上げる。


「母君よ、今度こそその願い叶えてみせる故、どうか信じてくれ…。」


三日月宗近の脳裏には、現世へ行った際目にした、毎朝毎朝神にまだ幼い娘の無事を祈る母親の姿が浮かんでいた。





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