十人十色

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過去(鶴丸国永)
※普通の人間からは刀剣男士の姿は見えないけど、男士から触れることは出来、人間の名前は男士に聞こえない設定です。



「よしよし…ねんね…ねんね…。」

「ぅ…。」

『こいつは驚いた。
流石は母君だな…。』


現世に留まっていた鶴丸国永は、赤子をあやす母親を見て感心していた。

先程まで大泣きだった赤子は、母親が抱き抱えてあやすと数分で泣き止んでしまったのだ。


『父君の時は泣き止む様子は無かったからなぁ…。
君は母君の方が良いのかい?』


母親の腕の中で涙目のまま眠たそうに目をしぱしぱさせる赤子に、鶴丸国永が話しかけながら鼻先にちょんと触れる。


「んん〜〜。」

「あらあら、お眠ね〜。」

『ははは!』


赤子はくすぐったかったのかしかめっ面で両手で鼻を拭うように顔全体を擦る。

そんな様子を鶴丸国永は楽しそうに眺めていた。

鶴丸国永が何故一人現世に留まっているのか…それはこの赤子、審神者の孫娘を守るためである。

生まれつき霊力が強く、良くないモノに目を付けられやすい為、祖父である審神者の刀剣男士達が交代で護衛をしているのだ。

そして今日は鶴丸国永の番である。


『しかし、赤子とは本当に小さいな…。
簡単に壊れてしまいそうだ。
長谷部が触れることすら戸惑ったのがわかる気がするな。』


初めて赤子と対面した時、へし切長谷部は触れることが出来なかったと言い、その後、様々な本を読み漁って赤子の抱き方やあやし方など調べていたそうだ。


「大人しくねんねしててね…。」


母親がそっと赤子をベッドへ寝かせると、目を開けることは無く、そのまますやすやと眠ってしまった。

ホッとした母親はタオルケットを赤子にかけると、ベッドに取り付けてあるベッドメリーの電源を入れて優しいオルゴールの音楽を流す。


「さてと!今のうちに洗濯洗濯!!」


母親は忙しそうに部屋を後にし、残ったのは赤子と鶴丸国永だけとなった。

初めはベビーベッドに肘をついて寝ている赤子を眺めたり、回るベッドメリーをつついていた鶴丸国永だったが、飽きてきてしまった。


『退屈で死んでしまいそうだ…。』


家を探索したいところだが、護衛なので赤子から離れるわけにもいかない。

どかりと床に座った鶴丸国永はベビーベッドの横の壁に背中を預けて頭の後ろで手を組み、ため息をついて天井を見つめていた。

ただ、ベッドメリーの優しい音楽だけが流れている。


ーーーーー
ーーーー
ーーー
ーー



「あぅ〜…」

『……ぉ?』


赤子の声にパチリと目を開けた鶴丸国永は、寝てしまっていたことに気付き慌ててベビーベッドを確認する。

するとそこには目が覚めている赤子と、ベビーベッドを覗き込む小さい何かがいた。


『何だお前ら…!!…ってお前達か…。』


一度刀に手をかけた鶴丸国永だったが、赤子を眺めている者達の存在がわかると刀から手を離す。

赤子を眺めていたのは、小さな小さな付喪神だった。

その姿は刀剣男士達とは違い、ほぼ道具そのままの姿で、刀剣男士と比べればまだまだ若く、格下と言えるだろう。


『数珠と硯(すずり)か。
お前達、御嬢を見に来たのか?』


鶴丸国永がそう声をかければ、数珠と硯の付喪神は嬉しそうにこくこくと頷く。

ここは古くからある神社であり、代々物を大切に扱う者が多く古い物もそれなりにあるため、小さな付喪神が何人かいるのだ。


ーーコソコソ…


『ん…?
おいおい、お前達は蔵から出てきたのかい?』


廊下から聞こえる音が気になり覗いてみれば、そこには雛人形の付喪神達が一列に並んでこちらへ向かって来ているところだった。

祖母、母、娘へと代々受け継がれてきた雛人形達は、新しい子を早く見たいと普段はあまり出て来ない蔵から出てきたらしい。


『ははは、御嬢は大人気だな。』


鶴丸国永が笑ってベビーベッドへ振り返ると、数珠と硯の付喪神の他に家の中に飾っていた壺の付喪神も加わっていた。

少し大きめの身体でベビーベッドの柵を一生懸命登る光景を、鶴丸国永は笑って見ていたが、次の瞬間その笑いは一瞬で消えた。

数珠と硯の付喪神が壺の付喪神を手助けしようとした時、うまい具合に柵が外れてしまい、壺の付喪神の重さも加わり柵は下へ下りてしまった。

しかも、タイミングが悪いことに、赤子が寝返りをうった瞬間だった為、赤子はベビーベッドから落下してしまうところだったのだ。


『おわぁぁぁああぁ!!!???』


鶴丸国永はスライディングでギリギリ赤子と床の間に入ることが出来、自身の胸の上で目をぱちくりさせる赤子を見て、長いため息を吐きながら安堵した。


『こんな驚きはいらないんだがなぁ…ははは…。』


安堵してぐったりしている鶴丸国永だったが、自身の上に乗っている赤子の顔が歪み始めたことに気付く。


『おいおい…まさか……。』

「ぅ…ふぇ……ぅわあぁぁぁんん!!!」


赤子は鶴丸国永の上で泣き出してしまった。

どこも怪我はしていないはずだが、どうやらベッドから落ちて何が起きたのかわからず、混乱して泣いてしまったようだ。


『えぇっと…!?
ここを支えて…こうだったか!?』


赤子を支えて起き上がった鶴丸国永は、へし切長谷部が得意気に話していた赤子の抱き方を思い出しながら、首の後ろとお尻を支えて抱き抱える。


『御嬢、泣かないでくれ〜!』


戸惑いながらも先程母親がやっていたことを思い出しながら見よう見まねで、身体を揺らし背中を優しく叩いてあやしていると、突然赤子と目が合った。


『ん??君、俺が見えて…』

「あぅ〜。」

『あぁ!?』


急に泣き止んだ赤子は、鶴丸国永の衣服に付いている装飾の鎖を掴んで口に入れようとしていた。


『待て待て!それは駄目だ!!
いやいや!その鎖も駄目だ!!
あぁ!!何でも口に入れようとしないでくれ!!』


鶴丸国永に付いている様々な装飾に手を伸ばす度に何とか阻止をし、近くにあった赤子のおもちゃを渡す。


『君のはこっちだろう?』

「んんー!」

『あだっ!!』


おもちゃを受け取った赤子だったが、気に食わなかったのか投げ捨てたおもちゃが見事鶴丸国永の顔を直撃した。

その様子を見た赤子はキャッキャッと笑い始め、鶴丸国永は少し赤くなった鼻を押さえ、じとっとした目で睨むが、もちろん効果は無い。


『まったく…御嬢はとんだやんちゃ娘だなぁ。』


ご機嫌になった赤子に鶴丸国永は苦笑いをこぼし、足元で心配をしてウロウロしている付喪神達に赤子の元気な顔を見せてあげるのだった。

その光景を母親に見られていたとは知らずに…。





おまけ


「パパ!!聞いて聞いて!!」

「どうしたんだいママ?
ーーが起きてしまうよ?」

「私見ちゃったのよ!!」

「え、何を…?」

「神様!!
今日ね、ーーがお昼寝してた時に泣いていたから様子を見に行ったら、ーーが宙に浮いていたのよ!!」

「え!?
それ、大丈夫だったのかい!?」

「大丈夫よ!
ーーったらご機嫌に笑っていたんだもの!!
それに、境内には悪いモノは入れないのでしょ?
きっとお義父さんの仰っていた守り神様がーーをあやしてくれていたのよ〜!!」

「そうか…守り神様が…。」

「えぇ、だからきっとーーは元気に育ってくれるわ…!」

「あぁ、そうだね…!」





余談
番外編(三日月宗近)で、母親が話していた神様の正体は鶴丸国永でした。

41話で、鶴丸国永が「もうこんな驚きは……」と言っていたのは、過去(今回の話)にも同じようなことがあったからです。

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