忍ぶる恋
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加弥乃の抜忍発言に動揺が広がる。
「例えお主の話したこと全てが事実だとしても、わしらはまだ信じることが出来ん。
この学園に忍び込んだ間者だと疑うだろうな…。」
何か証明することはないかと聞かれているのだろう。
加弥乃は新野の方を向き、体の包帯を取っても良いか尋ねる。
「…!!
……わかりました。
後で巻き直しましょう。」
「すみません…、ありがとうございます。」
目的を理解した新野は許可を出し、加弥乃は失礼しますと言うと皆に背を向け小袖を脱ぎだした。
動揺する空気が伝わり、止めようとする者もいたらしいが学園長がそれを制した。
腰まで浴衣を下ろし、体に巻かれた包帯を解いていく。
背中に垂れていた長い黒髪を背中が見やすいように横にずらし、前へ垂らす。
うなじが露になり、その後ろ姿はさすが色の術を使うくの一と言ったところだろう、とても色っぽく美しかった。
だが、背中の“それ”だけが異様だった。
『!!』
「これは…」
加弥乃の背中には切り傷や火傷で描かれた花が咲きこぼれていた。
「…この花は」
「花蘇芳(はなずおう)…。」
加弥乃の言葉を半助が遮る。
「…学園長、私の口から説明してもよろしいですか?」
「うむ。」
半助の行動は加弥乃を気づかってのことかもしれない。
くの一教室の教師山本シナは加弥乃の傍に行き、小袖を着るよう促した。
「もういいのよ…。
……!!」
加弥乃の体は背中だけでなく前も傷だらけだった。
これから、くの一として色の術を使うことは難しいだろう。
しかし、シナが驚いたのはそれだけではなかった。
加弥乃は表情こそ変わらないが、静かに気付かれないように涙を流していたのだ。
「もう隠すこともないでしょう…。
私が所属していた組織はシャグマタケです。」
シャグマタケ忍者はどこの城にも属さない実力のある忍者の集まりだ。
殺し合いが好きといったいかれた者が多く集まり、どんな惨い任務でも引き受けるような連中で、私欲のために忍術を使うこともある。
仲間を助けるといったことは一切せず、全ては自分の実力でどうにかするのがシャグマタケ忍者だ。
しかし、上下関係はしっかりしており、頭領の命令は絶対だった。
その頭領も残酷な男で、半助が抜け忍になる頃に代替わりした新しい頭領も負けず残酷だそうだ。
「シャグマタケ忍者の中では抜忍に対しての処罰があります。
抜忍は生け捕りにし、拷問にかけるのが彼らのやり方です。
…逃げないように足を傷つけ、次は抵抗出来ないように手を…そして背中に花蘇芳の花を掘るなどして相手を痛めつけていきます。」
半助の目配せでシナは加弥乃の手足の傷を確認すると、学園長に向かって頷いた。
「シャグマタケの先代頭領は南蛮に興味がある男で、花の言葉の文化を気に入り、抜忍の背中に掘ることを楽しんでいました。
現頭領も同じような人間です。」
南蛮では花には言葉があると言われていた。
それぞれの花には意味があり、その花を送ることで気持ちを伝えたりしていたのだ。
「して、花蘇芳の意味とは?」
「……裏切りです。」
室内は静まり返る。
学園長は湯呑に入ったお茶を一口ずずっと飲む。
「加弥乃殿。
これも何かの縁じゃろう…ひとまず傷が癒えるまでここにいたらどうじゃ?」
「しかし…」
「話はまた後日じゃ。
熱が上がったようだしの…。」
新野が加弥乃の隣に移動し、熱を測る。
「!!
加弥乃さん、これ以上無理はしないでください。」
「…はい。」
加弥乃は新野とシナに連れられ庵を後にし、学園長と残りの教師達はそのまま話し合いを続けた。
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