忍ぶる恋

□.
2ページ/10ページ

12



薄暗い地下室。

鉄とカビの臭いが鼻をつく。

何日経ったのかもうわからなくなっていた。

頭上で固定された手と地面に固定された足からは血が流れ、すでに痛みすら感じない。

服は着ていないに等しく肌寒い。


「おい、起きろ。」

「…。」


冷たい水をかけられる。

水が滴る髪の隙間から見ると、目の前には見覚えのある男が3人いる。


「やぁ、加弥乃おはよう。
よく眠れたかな?」

「…。」

「そうそう、報告があるんだ。
君が今までに逃がした奴ら、ほとんど処分出来たんだ。」

「…!!」

「かわいそうに、家族まで巻き添えになっちゃうなんてね…。」

「……家族まで殺したの…?」


やっと口を開いた加弥乃に嬉しそうな顔をする。


「私達のこと知ってるかもしれないんだし当たり前でしょ?
もしかして酷いとか思ってる?
酷いのは加弥乃の方だよ。
私を裏切って抜忍の手助けなんかするから、あいつらも家族も死ぬことになったんだからね。」

「っ…。」


飾東は部下に指示を出し炉から焼けた短刀を持ってこさせる。

その意味を理解した加弥乃はビクリと体が震え手足の鎖が音を立てた。


「さすがの君でも恐怖が出てきたね。
さ、昨日の続きをしようか。
まだ花蘇芳は完成していないよ。」


背後に飾東が移動し、短刀を背中に押し付けた。





「っは…!!!」


加弥乃は飛び起きた。

全身汗で濡れ、呼吸は荒くなっている。

急に吐き気がし枕元にあった桶を使った。


「…ぅ…げほっ…げほっ……。
はぁ…はぁ……くそっ…!!」


飾東に追われている恐怖とそれに脅える自分が悔しくて仕方なく、加弥乃は涙を流す。


「…どうした…?」

「!!……君は…6年生の…」


障子を少し開けこちらの様子を伺う色白の青年、立花仙蔵は少し驚いた顔をしていた。

実習の帰りなのか、仙蔵は忍装束姿のままだった。


「……伊作か新野先生を…」
「待って!
…呼ばなくて…いいから…。」


加弥乃は手ぬぐいで口元を押さえる。


「…悪いね、変なところを見せてしまって…。
もう大丈夫だから戻って構わないよ。」

「…。」


仙蔵は何も言わずその場を去った。

それを確認した加弥乃は大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。


「(体を拭かないと汗でべとべとだ…。
口もゆすがないと…。)」


水汲みに行こうとすると、人の気配がし再び障子が開き仙蔵が入って来た。

コトリ…と水の入った桶とカラの桶を驚く加弥乃の目の前に置いた。


「…何で…」

「…具合の悪い者を放っておくほど鬼ではない…。」

「…それが間者だと疑っている相手でも…?」

「あれが演技だとは考えにくかったからだ。」


それだけ言うと仙蔵は今度こそ部屋を後にしようとする。


「ありがとう。
新野先生や保健委員の子達には黙っててくれる?
心配させてしまうから…。」

「…そうだな…善処しよう。」


そう言い残した仙蔵だったが、次の日…。


「加弥乃!!!
仙蔵から聞いたぞ!!昨夜具合が悪かったそうじゃないか!!!」

「土井先生から聞きましたよ!!
今朝薬を持って行った時に何故言ってくれなかったんですか!?」

「加弥乃さん、もし毒の影響だったらどうしたんですか?
私達はあなたの傷を治すためにいるんですよ?
隠すとはどういうことですか?」


怒りと焦りが混じった半助と伊作が押しかけ、新野先生には説教をされてしまった。


「(あの仙蔵って子…半助先輩に喋ったな…。)」

「「「加弥乃((さん))!!!」」」

「はい、聞いてます…。」





.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ