忍ぶる恋
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朝。
加弥乃は藍色の忍装束に袖を通す。
今日は加弥乃が忍術学園の事務員として働く日だ。
「加弥乃さーん」
小松田の声に加弥乃は返事をし、障子を開ける。
以前加弥乃がこの学園に運ばれて来た時はサインなんて出来るはずもなく、数日経ってから入門表を持った小松田が加弥乃に会いに来たことがあった。
その時は少ししか話していなかったので、皆が言うへっぽこ事務員だとは思いもしなかった。
「おはようございます。」
「おはようございます!
今日からですねー。」
「はい…、よろしくお願いします。」
「こちらこそ〜」
小松田に案内してもらい、上司となる用具管理主任の吉野がいる事務室に向かった。
吉野と挨拶を交わすと、小松田のことがあるからかとても期待をされた。
その顔は必死どころか怖いくらいだ。
「とりあえず加弥乃さんには掃除をしてもらいましょう。」
「加弥乃さんこっちですよ〜」
掃除用具の場所やゴミ捨て場を案内される。
「いや〜、加弥乃さんが来てくれて嬉しいな〜!
僕にも後輩が出来たと思うといつもよりやる気が出ちゃうよ!」
「はぁ…。」
「あ、そうそう!
この辺りは気を付けてね、競合区域だから罠がっ…うわぁぁ〜!!!」
加弥乃に説明しながら歩く小松田が落とし穴に落ちて姿を消した。
「大丈夫?」
「いててて…こ、こんな風に罠があるから気を付けてね…。」
落とし穴に落ちた小松田に手を差し伸べて手助けする。
「おやまぁ、小松田さんがまた落ちたんですか?」
のんびりとした口調でやって来たのは落とし穴を作った張本人、4年い組の綾部喜八郎だ。
「綾部君〜、また落とし穴増やしたね〜!?」
「はい。落とし穴のトシちゃん94号です。
加弥乃さんのために掘ったのに小松田さんが落ちちゃったんですか。残念ですね。」
「また綾部君そんなこと言って〜。
加弥乃さん、気を付けてね綾部君の落とし穴は皆よく落ちるんだ。」
「えぇ、気をつけるわ。」
失礼しますと言って綾部は加弥乃の横を通り過ぎる。
「まだまだありますからね、あなたのために掘った落とし穴。」
小松田は土を払っていたし、小声だったので綾部の言葉は聞こえていなかっただろう。
やはり上級生は加弥乃を警戒している者が多い。
これは学園内を歩くだけでも警戒しなくてはいけないようだ。
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