金の輪

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青い髪の男の子…

君は誰…?

私と何か関係があるの…?


私は君を探すべきなの……?




人で賑わう小さな島国。

人々は髪の色、肌の色も違うが対立することなどない。

港では他国からの観光船や漁を営む島の人々がいる。

ある人気のない小さな海岸で一人の女が倒れていた。

青紫色の太ももまでの長い髪をおさげにし、キレイな顔立ちをしている。

年は恐らく二十歳前後だろう。

女は何度声をかけても気絶したままだった。


「…だから連れて帰ってきたと…?」

「ああ、そうだ!」

「あなたって人はっ…!!
もっと自分の立場をわきまえてください!!」


言い争っている男が二人。

と言っても女を連れて帰ってきた男、シンドバッドはまったく悪びれた様子はない。

彼を叱っている男は官服を着たジャーファルだ。

ジャーファルはシンドバッドがこの国、シンドリアの国王であるにも関わらず、女性を王宮に連れて帰ってきたことに対して怒っているようだ。


「あんな所で女性が倒れてたら放っておけないだろう!
ジャーファル、お前はそんな彼女をそのまま置いていけと言うのか!?」

「そうではありません。
ただ王宮に連れて帰って来なくてもよかったじゃないですか!
あなたは国王なんですから!」

「だからだ。」


シンドバッドは急に真剣な目つきで話した。


「…どういうことですか?」

「俺が今日あの海岸に行ったのは強いルフの光に導かれたからだ。
ここに連れてきた時にはもう光は小さかったからお前は気付かなかったんだろうな。」

「つまり…、彼女は普通ではないと…?」

「少なくとも俺はそう考えてる。」


そして二人はマスルールに空き部屋へ運ばせた謎の女が目を覚ますのを待つことにした。



「んっ………。」


ノーラはルフ達に呼ばれ、目を覚ました。


「(ここは…どこ?
あの部屋ではないみたいだけど…。)」


横を見ると窓があった。

窓へ寄り、外の景色を眺めた。


「すごい……、ルフ達が楽しそうにしてる…。」

外は南国のようで、鮮やかな植物が見えた。

見たことのない鳥も飛んでいる。

よく周りを見渡してみると、自分が宮殿らしき建物にいることに気付いた。


「一体誰が……。」


――ガチャ


「!?」

「…あっ!」


ドアの開く音がしたと思うと、入ってきたのは一人の女官だった。

女官は起きているノーラを見て驚くと、丁寧にお辞儀をし、また外に出てしまった。

ノーラが不思議に思っていると、またドアが開き、今度は大柄な赤髪の男性が入ってきた。


「シンさ……国王が呼んでます…。」

「国…王…?」




「目が覚めてくれてよかった。
具合はいかがかな、お嬢さん?」

「ぁ…えと……!」


国王のいる部屋へ通されると、紫の長い髪の男性とそばかすのある文官らしき男性がいた。

話しかけてきたのは紫の髪の男性だ。

にこやかに話しかけてきた。

身なりを見ると、どうやら彼が国王らしい。

ノーラは返事に戸惑ったが、相手が若い国王だと思い出すとその場に跪いて頭を低く下げた。


「お…お心遣いありがとうございます。
誠に失礼ながら…、私は自分の身に何が起こったのか覚えておりません。
よろしければ…お聞かせ」
「待て待てっ!!」


ノーラの話の途中で国王、シンドバッドが止めた。


「…はい?」


ノーラがゆっくり顔を上げると、困ったように笑ったシンドバッドがいた。


「まずは跪くのを止めてくれ、俺は君にそんなことをさせたくない。」

「え…。」


とりあえず、そこに座ってくれ…とシンドバッドは自分の向かいのソファーを指差した。
ノーラが戸惑っていると、後ろから誰かに持ち上げられた。


「キャッ…!?」


振り返ると、その人は先ほどの赤髪の男性、マスルールだった。

マスルールはノーラをシンドバッドの向かいのソファーに下ろした。


「ありがとう…ございます。」


ノーラがお礼を言うと、マスルールはいや…とだけ返事をした。


「さて、まずは自己紹介といこうか。
俺はこの国、シンドリアの国王シンドバッドだ。
こっちがジャーファルで君の後ろにいるのがマスルール。
お嬢さんの名前は?」

「わ…私はノーラと言います。」


ノーラは三人にお辞儀をした。


「ノーラ、君は自分の身に何が起こったのか覚えてないと言ったね?
まずは俺から君を見つけた次第を話すとしよう。」


ノーラは海岸で倒れていたところをシンドバッドに発見されたことを聞いた。

しかも、ノーラのルフがシンドバッドを導いたらしい。


「私の…ルフが…?」

「ノーラはルフのことを知っているのかい?」

「はい…。
あの、私…この世界のことなどはちゃんと理解しているのですが…、自分の記憶がとても曖昧で…。」


ノーラは視線を握りしめた自分の手に落とした。

すると、いつの間にかノーラの隣に移動してきたシンドバッドがノーラの両手を握って、まっすぐこちらを見つめてきた。


「覚えてることだけでいいんだ、教えてくれるかい?」

「ぇ…えっと……。
(あれ…?この人……。)」

「はぁ〜…。」

「…七海の女たらし。」


ノーラがシンドバッドの行動に戸惑っていると、ジャーファルとマスルールが呆れていた。


「ん?どうした二人とも?」

「いえ…もういいです。」

「(こくこく)」

「………。」


ノーラはシンドバッドに触れられた時に感じた違和感に少し疑問を持った。

ノーラはかすかに残る自分の記憶を少しずつ話した。

どこかの部屋にいたこと。
自分以外にも青い髪の少年と大きな男がいたこと。


「私の家族でも…恋仲の人でもなかったはずです。
ましてや奴隷と主の関係でもありませんでした…。
その部屋にいるのが苦でもなく、むしろ落ち着く場所でした。」


話し終えたノーラはシンドバッドにゆっくり休むように言われた。

今度はマスルールではなく、呼ばれた女官によってノーラは部屋まで帰った。


「シン、彼女をどうするつもりです?」

「…しばらく様子を見る。
やはり彼女はただの人間ではないようだ。」

「…何かわかったのですか?」


シンドバッドは自分の手を見つめて話した。


「少量だが…魔力(マゴイ)を吸われたらしい。」

「魔力を!?
マスルールはどうでしたか?彼女に触れましたよね?」


マスルールは少し考える。


「あー…、そうだったかもしれません…。」

「それを早く言いなさいっ!!」

「ハハハ!
マスルールらしいな!!」


シンドバッドが笑いながら言うとジャーファルは今度はシンドバッドの方を見た。


「シン、本当に彼女をここにおくつもりですか?
魔力を吸うとなるとあなたを狙う者かもしれませんよ!?」

「彼女ならきっと大丈夫、そんな気がするんだ。」


堂々と答えたシンドバッドの言葉にジャーファルは再びため息をついた。

マスルールはそんなジャーファルの肩をポンポンと叩き慰めている。


「…ジャーファル、実は彼女のことでもう一つ気になることがあるんだ。」

「…と言いますと?」


シンドバッドはある書物のタイトルをいくつかメモした。


「これを二人に取ってきてほしいんだ。」

「全て迷宮(ダンジョン)やルフなどに関する書物ですね。
…彼女が関係しているんですか?」


シンドバッドは静かに首を横に振った。


「まだわからない。
ただ、俺の考えが当たっているなら…彼女は重要な人物なのかもしれない。」

「わかりました。
では今から取りに行ってきます」

「あぁ、頼んだ。」





おまけ


「わかりました。
では今から取りに行ってきます」

「あぁ、頼んだ。」
「マスルールが。」

「え?」

「ジャーファルさん、俺文字読めないッスけど。」

「大丈夫です。
私の部下と一緒に行ってください。」

「ジャ…ジャーファル、俺はお前にも頼んだんだが…。」

「シン、あなたを一人にさせるわけないでしょう?(にっこり)
さっき抜け出したばかりなんですから。」

「…。」





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余談
ノーラという名前はアラビア語で光の意味。




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