愛憎
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06
「やっほぉぉい!!」
大きな水しぶきの音が響き、水が大きく舞い上がった。
ここは無人島。
ハートの海賊団とエリザは無人島の海岸にいた。
この無人島は夏島らしく、バカンスを楽しむには丁度良かった。
ロー以外のクルーほとんどは船から海へ飛び込み遊んでいた。
「……何これ…」
「バカンスだ」
どこから持ってきたのか…パラソルの日影でコックから貰ったドリンクを飲みながらエリザは呆然とクルーの海賊らしからぬはしゃぎっぷりを見ていた。
エリザのつぶやきに答えたローだが、まさかローの口からバカンスという単語を聞くとは思わずそれからエリザは黙ってしまった。
「エリザ!
お前入らないのか?」
「水着無いのか!?水着!!」
「そうだ!水着!!」
エリザの水着姿が見たいらしく、クルーが騒ぐがエリザは水着を持っていない。
「そう言えばお前、全然肌見せねぇな…
普通女ならスカートとか履くだろ…」
「……肌見せるの嫌いなの…」
エリザはずず…っとストローに口を付けドリンクを飲んだ。
「でも暑くないのか?」
水着に着替えてきたペンギンが話に加わった。
「平気…Yシャツなら全然涼しいし
あなた達だっていつもつなぎで暑そうじゃない」
ペンギンが笑いながらまぁな…と言うと、エリザはペンギンの腕を引っ張り自分と場所を入れ替えた。
「は!?」
「えぇっ!?」
ーーザッパァァン!
直後、ペンギンはシャチに後ろから押され海に落ちた。
ーーザッパァァン!
続いてシャチもエリザに足を引っ掛けられ海に落ちた。
エリザは再びパラソルの下に戻るとドリンクを飲む。
「シャチ!!」
「わ、悪いペンギン…!
ちくしょー!何で気付いたんだよエリザ!!」
シャチはエリザを後ろから押して海に落とそうと企んでいたのだが、それに気付いたエリザにペンギンを身代わりに使われ、最後には自分まで落とされてしまったのだ。
「考えてることわかりやすいのよ」
ストローに口を付けようとした時、隣のローにグラスを奪われた。
そして…
ーーザッパァァン!
「………」
「ぶわっはは!!船長ナイス!!」
エリザまでも海に落とされてしまった…ローによって。
ローがこんな行動に出るとは予想外でエリザも油断していた。
無言でローを睨むと笑い返された。
「能力者かどうか調べておこうと思ってな」
嘘に決まっている…ローの笑みを見てそう確信できた。
ふと気が付くとほとんどのクルーの姿が見当たらない気がした。
そして自分の周辺に泡がブクブクと何カ所も出ていることに気付いた。
「(こいつら…!!)」
姿が見当たらなかったクルー達は海の中に潜っていた。
目的はエリザの身体を見るため…。
何人かは後が怖いのか興味がないのか呆れていた。
直ぐに甲板へ上がろうとすると、ふわふわ海に浮いていた身体がしっかりとした地面に足をついていた。
よく見ると甲板の上に戻っていた。
「…?」
ーーバッシャァァアン!!
「ギャー!!」
海を見下ろすと自分がいた場所にはベポがいた。
「…あなたが…?」
「アイツらがお前に変な問題起こしても面倒だからな…」
ローは丁度海に入る準備が出来たベポをエリザと入れ替えたのだ。
ただ入れ替えただけではない。
まずエリザの頭上に浮き輪を投げ、ベポと浮き輪を入れ替え、甲板に戻ってきた浮き輪とエリザを入れ替えたのだ。
手の込んだ能力の無駄使いのような悪戯だった。
「とりあえず…ありがとう…」
「………なかなか良い眺めだな…」
顎に手を当てエリザのことを眺めているロー。
何を眺めているか…それは水に濡れ体に張り付いた服が見せるエリザの身体のライン…。
「なっ…!!」
「礼ということにしておく…」
ローはニヤリと笑いパラソルの影に置いてある椅子に座った。
珍しく顔を赤くしたエリザはバタバタと船内に戻って行った。
その日の夜は島の浜辺でバーベキューだった。
歌ったり踊ったり宴会騒ぎでハートのクルー達は楽しんでいた。
「エリザどうしたんだ?」
「……何でもないわ…」
あまり楽しそうにしていないエリザを見てベポが話しかけてきたが、エリザは何かを睨みながら一言返事をするだけだった。
「船長…なんかすっごい睨んできてんですけど……」
「知るか…お前らじゃないのか?」
「いやいや!あきらか船長のこと睨んでますから!」
シャチはエリザの顔をチラチラ気にしながらローに話すが、当の本人は気にする様子もなく酒を飲んでいた。
「はい、エリザ!
元気出るぞ!」
ベポは持ってきた酒をエリザに渡した。
酒を飲めばみんな楽しくなるという考えからなのだろう。
「ベポ……」
エリザはベポをぎゅーっと抱きしめた。
あー!!!ずりぃー!!!…と、クルー達のギャーギャー騒ぐ声が聞こえたが気にしない。
毛のもふもふも堪能し、ベポから貰った酒を飲み始めた。
「お、エリザお前結構いける口だな!」
「まぁ…」
ペンギンがエリザの飲みっぷりに目を付け話しかけてきた。
エリザはそっけなく返事をしながら二杯目に口をつける。
「よし!俺と対決だ!!」
ペンギンを押しのけ、シャチが酒瓶片手に飲み比べ対決をしようと言い出した。
「えー……めんどく…」
「お!シャチとエリザの対決か!?」
「誰か賭けろよ!」
「おーい!もっと酒持って来ーい!!」
エリザが断る前に周りが勝手に話を進め、エリザはシャチと飲み比べ対決をすることになってしまった。
「エリザ!やるぞ!!」
「私一言もやるなんて言ってないんだけ…」
「負けた方は一つ言うことを聞くでいいよな!」
またもやエリザの声は遮られ、仕方なく対決に参加する
クルー達に囲まれエリザとシャチは酒を飲み始めた。
少し離れたところから一人ローはその様子を静かに見ていた。
ーーー
ーー
ー
「うぷ……」
バタリとシャチが倒れエリザの勝ちが決まった。
「ぅ…」
「ギブ…」
次々とクルーが降参の声をあげる。
途中から他のクルーも混ざり始め数人で対決をしていたのだ。
「お前強いな…」
対決に参加していなかったペンギンが驚きながらエリザを見る。
「相手を油断させるために飲ましたりしてたらいつの間にか私も強くなっててね…」
そう答えるとエリザはジョッキに入った残りの酒を飲み干した。
「…で、さっきからこっち見てるけど、船長さんはやらないのかしら…?」
ローは立ち上がりゆっくりとエリザの方へ歩いてきた。
手を出し能力のサークルを作るとローの掌には水の入ったコップが現れた。
「飲んでおけ」
コップをエリザに渡すとローはエリザの横を通りすぎ船に向かって歩いていってしまった。
「何あれ…」
「心配してるんだろ」
「あれが?」
「あぁ…」
ふーん…とエリザはローの後ろ姿を見ながら水を一口飲んだ。
冷たい水は酒ばかり飲んでフワフワしていた頭をすっきりさせた。
こんなに飲んだのは久しぶりで確かにこれ以上は危なかったかもしれない。
段々と眠気が出てきたエリザが周りを見ればその場で寝始めるクルーが続出していた。
今日はこれでお開きとなるだろう。
エリザはハートの海賊団の船の自分の仮部屋へ戻って行った。
ーーそんなエリザとハートの海賊団の様子を見つめる影がいた……。
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