愛憎

□.
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春島に着いてエリザは車椅子を持ったベポに運ばれていた。


「別に歩けるからいいんだけど…」

「キャプテンから許可が出てないからダメだぞ!」


そう言ってベポは車椅子が使えない砂浜をエリザと車椅子を抱えて歩き続けた。

この春島はたくさんの桜が咲き、食べ物も桜に因んだものや桜を使ったものがたくさん売られている。

街に着いた2人はいろんなお店を見て回った。

次々と食べ物を買うベポの横でエリザはパン屋とおにぎり屋を見ていた。

桜が練り込んであるデニッシュパンと桜の塩漬けを使ったおにぎり。

エリザが悩んでいるとベポがどっちも美味しそうと寄ってきた。


「キャプテンはパンが嫌いだし、おにぎり好きだから絶対おにぎり選ぶんだよ!」

「は…?パンが嫌いなの?」


珍しいと驚きながら、そういえば初めてベポと会った時にそんなことを言っていたことを思い出した。

アイスを見つけて走っていったベポ。

1人になったエリザは再び考え、おにぎりを買った。


「(まぁ…お礼を兼ねて……。)」


店員からおにぎりを受け取ると美味しそうにアイスを食べるベポのもとへ車椅子を動かした。

行き同様、砂浜でエリザと車椅子の両方を抱えてベポが船まで向かって歩いた。


「ベポたくさん買ったわね…。」

「美味そうなのがたくさんあったからな!
そういえばエリザは可愛いの買ってたな!」

「…………可愛かったから…。」


照れたように顔を反らす。

エリザが買ったものとは見た目が可愛い食べ物が多かったのだ。

桜型、ピンクのウサギ型、蝶々型などなど…とにかく可愛らしい。

船の甲板に上がり、車椅子に下ろしてもらう。


「あ、シャチとペンギン!
おーい!シャチ!!ペンギン!!」


ベポが2人の名前を呼ぶが2人は何か盛り上がっているようで全く気付かない。

ベポに車椅子を押され、2人の方へ近付くと何やら怖いと大声を上げていた。


「うるさいわよ…。」

「「ぎゃぁぁ!!?」」


あまりのうるささにエリザが声をかけるとお化けでも見たかのように2人はお互い抱き合って叫び声を上げた。

結局2人は何を話していたか答えず、ごまかして船内へ入ってしまった。


「どうしたんだ、あの2人?」

「別にいいわ…。
ベポ、食べましょう。」


2人は街で買ってきた食べ物を甲板の隅でピクニックのように床に座って食べ始めた。

桜の花びらが風に乗って甲板まで飛んでくる様子を見ながらのんびりと食事をしていた。

ドリンク片手に飛んでくる花びらを目で追っていると、上の甲板にローがいるのが目に入る。

何か考え事をしているらしい。

“死の外科医”と呼ばれる恐ろしい海賊だが、エリザは傷の手当てをされたり助けられたり、クルー達ととても仲良くなってしまった。


「(私を仲間にするつもりかしら…?)」


外堀を埋められているような気はしていたが、わかっていて特に抵抗はしなかった。

このままハートの海賊団にいてもいいと思っている自分がいるからだ。

他の海賊とはどこか違うこのハートの海賊団をエリザには敵に見ることが出来なくなっていた。


「(参ったわ…。)」

「あ!エリザおにぎり買ったんだね!」


エリザの考えなど知らず、ベポは桜のおにぎりを見てローにも分けようと話し出した。

船内へ呼びに行こうとするベポを止め、上の甲板にローがいることを教える。


「キャプテーン!!食べるー?」


おにぎりをかざし呼ぶベポに気付き、短く返事をしてきたローにエリザは少し驚いた。


「(断ると思ってた…。)」


ローだけが来るはずだった甲板は話を聞きつけたクルー達で賑わい始め、最終的には宴会状態になっていた。


「なぁエリザ、お前目が金色になるんだって?」


酔ったペンギンが前回の秋島の話題を持ってきた。

エリザと同じ買い出し班だったシャチ達から話を聞いていたらしく、自分も見たいと言い始めた。


「……企業秘密。」

「えぇー!ずりぃー!!」

「俺達にも見せてくれよー!!」

「俺も見たい!!」


ベポまで混ざってしまった。

ベポを除き、酔っ払った男達にねだられても何も可愛くない。

リクエストには答えず黙々と食事を進める。

そういえば…とエリザはローが自分の目のことをどこかで聞いたことがあると言っていたのを思い出した。

ローのことだ、エリザの目のことは調べているだろう。

そう思いローの方を見ればほとんど無くなっているが、おにぎりの皿に一番近い場所に座っていた。

手にもおにぎりが握られている。


「(本当におにぎり好きなんだ…。)」

「本当にキャプテンはおにぎり好きだね!」

自分の思っていたことをベポに言われエリザは一瞬ドキッとしてしまった。


「そのおにぎりはエリザが買ってきたんだよ!」


ベポの言葉にエリザとローの視線がバチリと合う。


「………私も食べたかったし、この前のお礼も兼ねて…。」

「へぇ…。珍しいこともあるんだな…。
こりゃ天候に気を付けた方がよさそうだ。」

「パンでも買ってくればよかったかしら?」


ローのからかうような口調に嫌みで返すと、それを聞いていたクルー達は2人のやりとりに笑っていた。






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