愛憎
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夏島に上陸してから3日目。
昨日作ったつなぎを着てエリザはベポとシャチと買い物に来ていた。
試しとして着た昨日はタイツを履いていたがここは夏島、タイツでの行動は暑い。
つなぎにブーツ姿のエリザは太腿から膝下まで生足になるため朝からクルー達は大喜びだった。
変なことを考えた者、口走った者はエリザの容赦ない蹴りがプレゼントされたとか。
「エリザー…俺暑い…。」
「アイス売ってるわよ。」
「食べる!」
「切り替わり早ぇな!!」
最初はいらないと言っていたシャチも結局アイスを買い、3人でアイスを食べながら町中を歩く。
途中で暑がるベポに日傘を買って持たせた。
大きめの物を買ってもベポがギリギリ入るくらいだ。
「いっそパラソルにした方がよかったかしら?」
「それはそれで邪魔だろ。」
「大きければ私も入れるじゃない。」
帽子にサングラスのシャチとは違い、エリザは何も付けていない。
日差しが直接照りつけて暑いのだ。
「エリザ貸そうか?」
「いいわよ。ベポの方が暑いでしょ?」
全身に毛がある分ベポはとても暑いだろう。
春島で育ったエリザは寒さより暑さの方に強く、ベポほどへばってはいない。
それに今までは傷を隠すため夏島でも長袖を着ていたのだ。
考えてみればどうってことない。
「お前も帽子買えばいいんじゃね?」
「あそこに帽子屋あるよ!」
今まではパーカーのフードを被ってすませていたが、ハートの海賊団は帽子を被っている者が多いしいいかもしれない。
そう考えたところでハートの海賊団のクルーらしくしようとしている自分に笑いがこぼれた。
ベポが見つけた帽子屋は意外と大きな店で、品揃えも豊富だった。
夏島なので麦わら帽子など風通しの良い物が多いが、船乗り達のためなのか冬島で被るようなニット系の帽子もある。
「すげぇ数だなー…。」
「エリザ!これ可愛いよ!」
ベポが手にしている帽子はピンク色のニット帽で長いうさぎのたれ耳が付いている。
春島でベポと買い物をした時にエリザが可愛らしい物ばかりを買っていたのをベポは覚えていていたのだ。
「うん。可愛い…すごく可愛いけど…つなぎと合わない…かな…。」
「ばっかだなーベポ。
エリザがこんなの好みなわけねぇだろ?子供っぽすぎだろー」
そうバカにして笑うシャチ。
ベポはそうなの?と首を傾げ、エリザは無言でシャチの方を振り返ろうとしない。
「…。」
「え?」
「…。」
「まじで?」
「…。」
「こういうの好み?」
「…。」
顔が熱くなっているのがわかる。
シャチに顔を覗き込まれそうになりプイッとそっぽを向いた時、誰かに帽子を耳まで深く被せられた。
「あ!」
「え!?船長ぉ!?」
帽子の鍔を少し持ち上げ目の前の人物を見上げると確かにローだった。
後ろからペンギンも小走りで追いかけて来る。
「何してんだお前ら…。」
「キャプテン!今俺達エリザの帽子選んでたんだ!」
「そしたらエリザの好みが…」
「うっさい!!」
余計なことを言われる前に自分が被っていた大きな帽子をシャチに乱暴に被せる。
少しは顔の熱も引いた。
運良くローが帽子を被せてくれたおかげで見られずに済んだ。
倒れたシャチを起こすベポとバカにするペンギン。
シャチのことは放っておき、帽子探しを再開して近くの棚を眺めることにした。
「顔を赤くするなんて海に落ちた時以来じゃないか…?」
「!?」
後ろからそう囁かれて慌てて振り返る。
遊ばれている。
ローのしたり顔を見てそう思った。
「エリザ、これなんてどうだ?」
ローへ一睨みしてからペンギンに呼ばれた方へ向かった。
ペンギンがすすめる帽子は彼と似たタイプの黄色いニット帽だった。
両耳のあたりから三つ編みが垂れ、先にはポンポンが付いている。
「可愛いけどちょっと邪魔になりそうね…。
それに、やっぱり私は黒にしないと落ち着かないわ。」
今まで黒系しか身に付けていなかったエリザは白いつなぎさえ違和感で落ち着かないのに、帽子まで明るい色だと気になって仕方がない。
「こういうのでいいのよ。」
近くにあった真っ黒なキャップを被る。
キャップの鍔は少し大きめで顔を隠してくれる。
確かに見た目的にもエリザにしっくりくるが、もう少し女っぽいものを被ってほしいと言うのが男達の希望だった。
「エリザ、俺ももっとエリザは可愛い格好していいと思うんだ。
今までは1人だったかもしれないけど今は俺達がいる!
仲間だから俺達エリザのこと守るよ?
だから賞金稼ぎの時みたいに目立ちにくくしようとか、顔隠そうとか考えないでもっと自由にしていいんだよ!」
「ベポ…。」
嬉しさと感謝の気持ちを込めてベポにぎゅーっと抱き付く。
シャチとペンギンがクマのくせにずるいなど悪態を吐いている。
「ぁ…。」
ベポに抱きついた時、ある帽子が目に入った。
普通より少し丸みのある黒いワークキャップ。
小さな黄色いリボンが付いて、シンプルだけど可愛らしかった。
黒い無地のキャップを脱ぎ、その帽子を取ろうとしたがそこに目当ての帽子は無かった。
この一瞬で誰かに取られてしまったのかと不思議に思っていると、本日2度目の帽子を被せられる感覚。
今度は深く被されることはなく、優しく頭に乗せられた。
「エリザ似合ってるよ!」
「さすが船長!」
「センスいいっす!!」
鏡を見るとさっきまでそこにあった黄色いリボンが付いた黒いワークキャップが自分の頭に乗っていた。
選んだのはローのようで、こちらをジッと見ている。
「………プッ…」
なんだか可笑しくなって吹き出してしまった。
「……人の顔見て笑うとは失礼だな…。」
「別に船長さんの顔を見たから笑ったわけじゃないわ…。」
「じゃあ何だ…」
「おじさん、これください。」
不機嫌そうなローと首を傾げる2人と1匹を通り過ぎてカウンターへ帽子を持って行く。
「似合うでしょ?」
「俺が選んだからな。」
「あら。買うのを決めたのは私よ?」
「何だその屁理屈。」
「屁理屈で結構。
この帽子、先に目を付けていたのは私だって知ってた?」
「……さぁな。」
「何今の間。」
「少しは黙ってろ…。」
少しだけ楽しげに話しながら歩くエリザとローの後ろ姿をシャチ達は見ていた。
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