novel『黒執事』vol.1短編
□『鎮魂歌』
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生きる苦痛は。
輝かしく眩しい、夏の陽射しに似ているが。
死ぬ苦痛は。
快楽に近い、安寧に似ている、気がした。
「・・・やっぱり、少しだけ怖い、な」
首筋に口接ける寸前で、セバスチャンが動きを止めた。
「臆しましたか?」
それとは意味が違う様な気もしないが。
否、やっぱり。
「そうじゃない」
と、小さく頭を振って見せる。
最初で最後の、一度きりの通過儀礼。
産まれ落ちた瞬間の記憶はなく。
成長するに従い、得た教訓にはない。
人間が。
生物が死ぬ、と言う見知らぬ恐怖で。
他人や動物が、と言うのは。
幾度か見て来た、経験がある。
けど、自分が死ぬ、と言う事実を突き付けられれば。
少なからず恐怖感が湧くものではないだろうか。
優しくされたい訳じゃない、が。
こう・・・と言った具体論は、今直ぐには提示出来ない。
「・・・複雑な心境だ」
と、正直に。
あるがままの胸の内を伝えると。
セバスチャンは、困った様に苦笑った。