novel『黒執事』vol.1短編

□『ST.Valentine's Day』
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向かった先は、厨房。

普段、セバスチャンからあまり近づくなと言われている場所でもある。

時折セバスチャンの目を盗んでは、つまみ食いしてたりして。
結構、勝手知ったりもしてたりする。

今日、今この時間帯から夕方にかけて。
セバスチャンは、僕のお使いでファントム本社に出掛けていて留守だ。

チャンスは今しかない。

厨房の扉を開けると、料理長のバルドの背中が見えた。

どうやら夕食の下拵えをしている様子。
ずいぶん大人しいのが不気味だ。

・・・そう言えば、昨日も朝から得意の得物を爆発させて。
セバスチャンに大目玉をくらっていたのを思い出す。

反省しているからか。
セバスチャンに得物を取り上げられたからか。

今回、銃火気は使用してないようだ。

「バルド」
名前を呼んで見たら。
鍋の中を掻き混ぜながら、クルリと振り向いた。

「またつまみ食いッスか、坊ちゃん?」
悪戯っ子みたいに、ニカッと歯を見せて笑う。

いつも手引きをしてくれるのがバルドだから、そう思われても致し方ない。

「・・・今日は、違う」
「なら、どうしたんスか?」

屈託ないバルドの笑顔に、シエルは少々躊躇いながら口を開いた。

「バルドはチョコレートの作り方、分かるか?」
「は?」

「だから、チョコレートの作り方だ!」

「知って、ますが・・・?」

ポカン、としながらもバルドは首を縦に振る。

「教えて欲しいんだ、作り方」

使用人達はシエルに対して、絶対的な信頼を寄せている。
だから、無用な詮索はしない。

シエルが教えろと言っているのだから、黙って教えるだけ。

「いいッスよ」

分かりました、と。
バルドは二つ返事で領承した。

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