novel『その他』

□『折れないハート』
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チン、と甲高い音を立ててエレベーターが停まる。

開くドアの隙間から、サッと軽やかに身を翻して通路の一角に滑り込んだ。

目的地である部屋の扉の前に護衛は二人。

まずは右フックで一人、続いて華麗な脚技で一人、とKOして。
今時には珍しい稚拙なアナログ式のセキュリティーを解除する。

カチリ。
解錠の音が、静まり返ったフロアに厳かに響いた。

端整な作りのドアは音も無くスッと開いて。
難無く室内に侵入する事に成功した。

とりあえず、ホッと安堵の溜息を小さく漏らして。
改めて、これからに気を引き締める為に、カイトはキュッときつく唇を結んだ。

目つきを厳しくリビングへと向かう。

いつも傍らに居るオービタル7には別任務を任せてある。

今頃はハルトを奪還して、当初の指示通りの場所で主人の合図を待っているだろう。

今日の獲物は、捕われた弟のハルトと。
もう一人・・・

(手間の掛かるヤツだ)

そもそも、陰謀の黒幕の言いなりになってのこのこ着いて行くヤツが居るか?!

・・・まぁ、実際居たけど。

お前の能力こそがヤツらの目的だ、と何回言い聞かせたか。

・・・効果はなかったみたいだが。

ともかく!
単細胞にも程がある!!

帰ったらきつく説教だ!!

憤慨を息巻いて、カイトは慎重に室内を覗き込んで。

「見つけたぞ、遊馬!」

探していた人物を確認すると。
己が侵入者であるのも憚らず、怒号を放った。

リビングのソファに座り込み俯いていた、遊馬と呼ばれた少年は。
一瞬ギョッとした顔をして、思わず身体を退いたが。

「カイト・・・!!」

味方だと知るや否や、ボロボロと大粒の涙を零しながら、カイトに飛びついた。

お前は馬鹿か!
危機感を持てとあれ程言ってきただろう!
お前も耳タコだって言ってたよな!?
だったら何度も言わせるな!!

遊馬に会ったら何から言おうか、散々考え倦ねていた。

が、こうして遊馬にようやく再会出来て、泣き縋られてしまえば。

怒り心頭だった熱が一気に冷めていくのが手に取るように分かる。

非常に癪だが。
自分がカリカリしていた理由も、悟った。

カイトの口からついて出た言葉は・・・

「・・・大丈夫か?」

何とも安直な。
何とも安易な、心配の言葉、一言だけで。

無事な姿を見て。
声や温もりや重みをこの腕で確認出来て。

自分よりも小さな肢体を抱き絞めるだけで、凄くホッとする。

(所謂、惚れた弱み、と言うヤツだな)

自覚はしているが。
こうもありありと実感してしまうのは、何だか歯痒い。

凌牙辺りなら、間違いなく面白がってからかってきそうだ。

ギュウギュウとしがみつく遊馬の頭をゆっくり撫でてやると。
俯いたまま、しゃくり上げながら小さく「ごめんなさい・・・」と呟きが聞こえた。

「あまり心配をかけるな」

カイトは優しく言い聞かせる。

ピタリ、磁石の様にくっついていた身体を。
遊馬は少しだけ引き離した。

「うん」

無造作に袖口で涙を拭うと。
頭一つ分以上高みにあるカイトの顔を見上げて、不器用に笑った。
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