novel『イナGO』vol.1

□『惚』
1ページ/1ページ


シン・・・と静寂に包まれた室内。

さっきから、やけに天馬の視線が刺さる。

いや。
刺さるなんてもんじゃない。

何か知らないが。
凄い見られている。

今は、天馬の部屋で二人きりだから。
最初は、見詰められてる事にドキドキと、柄になく緊張していたが・・・

その視線の意味が、いつもと違った。

フワフワとした甘い雰囲気になる訳でもなく。

ただ、ジッと強く睨まれる様に見詰められているだけで・・・

あまりに凝視されすぎると。
返って不安になる。

顔に変な物が付いてるのか?とか。
何かしたかな?とか。

ピクリ。
こめかみが小さくひくつくのが分かる。

穴が開きそうな痛すぎる視線に居た堪れなくなって。
意味もなく伝う気のする冷や汗と共に。

天馬から、ふと顔を背けた。

が・・・まだ見てる。

(一体何なんだ・・・今日のコイツは)

そろそろ不安感が苛立ちに変化しそうな剣城だったが。

でも、なるべく衝動的な怒りをぶつけたくなくて。

それらを抑え込む為に、これみよがしに特大級の溜息を。
眼前で盛大に吐き捨てる。

「・・・なんだよ」

その一言を搾り出すのが精一杯だった。

が。
天馬からの返答は、無い。

沈黙が痛い・・・

やっぱり、知らず知らずの内に。
何か気に障る事をやってしまったのだろうか・・・?

生きてきた中で、今だかつてない寒さを覚えた。

ザァ・・・と、強烈な引き潮の如く、一気に血の気が引いていく。

元々の色白な肌も、今は病人並に青冷めていた。

嫌われてしまったのではないだろうか?

(もし、そうなら生きていけない・・・)

天馬の事が。
好き過ぎて、好き過ぎて、好き過ぎて仕方ないぐらいに。

誰よりも大切で。
何よりも大事で。

世界で・・・いや、宇宙で。
いや、超次元規模で一番に大好きだ。

表面には絶対出さないし。
面と向かっては言ってやらないけど。

(ど、どうしよう・・・)

いつになく追い込まれた気分だった。

強敵との決勝戦で、無得点のまま迎えた後半戦。
残り時間数分を切った、ゴール前での緊迫する接戦でのゴールチャンス!!・・・に、似た感じ。

勝つか負けるか、よりも。

このボールを失ってしまうかも知れない、恐怖。

それが一番怖かったりする。

(ダメだ・・・気分悪くなってきた・・・)

結局、現状を打破する打開策が思い付かないまま。

吐き気と頭痛がジワジワと襲い来る。

(あ、眩暈も・・・)

耐え切れず。
剣城は、頭を抱えて俯いた。

「剣城は、さ」

グルグル。
ジェットコースターに乗って迷走する思考の中に届いた、天馬の声に。

「・・・え?」

咄嗟に反応出来ず。
一瞬、反応が遅れた。

「俺のコト・・・好き?」

あぁ、好きだよ!!
大好きだよ!!こんちくしょう!!
・・・と、叫ぶ事は出来ず。

「俺と一緒に居て、ドキドキする?」

ときめきまくりだよ!!
・・・とも言えず。

「・・・何が言いたいんだよ?」

冷静を装って、反対に問い返すと。

天馬は、クリクリとした大きな御空色の瞳を輝かせて。
「あのね!」
と、剣城の膝上に乗り上げて、ズイッと顔を近付けた。

「"ほれる"と"ぼける"って同じ漢字なんだって!」
「・・・は?」

「だから、恋をしないとボケちゃうんだって!!」
「・・・で?」

「だから!!剣城はちゃんと、俺に恋してる、のかな・・・って」

強気だった天馬の視線が、みるみる萎んでいく。

自分に、自信なんてある訳ない。
ある奴は、相当なナルシスト野郎だ。

「俺は、剣城と居ると心臓がもたないぐらいにドキドキするし・・・その、」

言いかけて、急に押し黙ってしまった天馬の頬が朱に染まり、視線がアチコチにさ迷う。

「早く、言えよ」

続きを急かす様に。
剣城は、自分の額を天馬の額に軽く押し付けて。

逃がさない様に、後頭部と逃げ腰を両腕で絡めた。

「あのね・・・」
「ん?」

どちらからでもなく。
引き合い触れ合う、口唇。

「こーいう事もしたいぐらい・・・好き」

その甘さに陶酔を重ね。
何度も角度を変えて啄み、口接け合う。

「剣城は、俺のコト、どう思ってるの?」

回数なんて忘れた口接けの後。

剣城は、天馬を両腕の中に深く深く抱き締めて。
柔らかいくせっ毛の飴色に、恍惚と頬を擦り寄せながら。

「好きに決まってんだろ。バカ」

その華奢な身体を。
一層、強く締め付けた。

良かった、と。
微かに安堵の声が漏れて。

天馬も、剣城の背中に両腕を回して。
これでもか、という程に強く強く抱き付いた。

「これで剣城も一生ボケなくて済むね!」
「・・・それを心配してたのか、お前は」

悩みに悩んで、鬱々と落ちていた自分って一体・・・

(余計な心配しすぎだっつーの)

嬉しい反面。
やや心中複雑な剣城だった。

‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡

END

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ