獣達との旅路(ポケモン)
□第一話
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ポケットモンスター
縮めて“ポケモン”
空
海
大地
様々な場所に生き暮らしている
不思議な生き物たち
彼らと共に生活したり
また力を示すため
時にはパートナーとして
その頂点を目指す
これはそんな日常を描いた
物語
第一話
厄介事は舞い込むもの
「ポケモンワールドチャンピオンシップス?」
「あぁ。今まで幾つもの地方でトップを競い合ってきた。その大会のファイナルがガラル地方に決定したんだ」
「へぇ……」
「いや、‘へぇ’じゃない。君にも関係あるぞナナシ」
「無いだろ。私はチャンピオンじゃないし。カントーとジョウトのリーグチャンピオンはワタルだろ?」
「……その言葉、全地方のリーグトレーナーに聞かせてやりたい」
ここはセキエイ高原にあるポケモンリーグ本部の一室。
部屋は執務室と応接室を兼ねているのか広く、応接をするであろうテーブルと質のいいソファがあり、そこを大きくパーテーションで区切られていた。
だが今はその隔たりはなく解放されていて、そこに顔をつき合わせるのは男女二人。
男性…ワタルは、なにやら書類を片手に呆れ顔をしていた。どうやら向かいに座る女性…ナナシに対してのようだ。
「殿堂入りしてからのチャンピオン防衛戦無敗だろ君は」
「四天王の皆が優秀だからな。私のところまで来ないから、こうして書類整理が楽だ」
「……まぁそれもあるが、いやそれとこれとは別物だこの話は」
「チッ…」
「舌打ちをするな。まったく…それでも全国覇者か」
「不名誉極まりない肩書きをありがとう」
「眉間に皺を寄せるな」
「ワタルは私のお母さんか」
「言われるようなことを君がやるからだろう。話が進まない。簡単に説明するなら、ナナシ、君にはこのポケモンワールドチャンピオンシップスに出て「断る」……最後まで言わせろ」
食い気味に拒否を示したが、ワタルは肩をすくめて書類を見て説明した。
「この大会は本当に世界チャンピオンを決めるためのものだ。全国制覇した君には参加資格がある」
「私だけじゃないんだろ?」
「当たり前だ。各地方のジムリーダーやリーグトレーナー全員かトーナメントで勝ち抜き、そのファイナルがガラル地方での開催だ。そこで…」
「世界チャンピオンが決まる…と」
「そう言うことだ」
「なら、なおさら私は参加しない」
「ナナシ……」
ワタルにはナナシがここまで拒絶の意志を示すことが分からないでいた。
ポケモンワールドチャンピオンシップス。
全国のポケモントレーナーの頂点を決めるこの大会は毎年熾烈を極めていて、今回はナナシの参加資格のこともあり、各地方のリーグトレーナーは浮き足立っているのだ。
無敗を誇り、だがそれを鼻にかけるわけでもなく、敗北した挑戦者にアドバイスを送り、更に強くなるためにと地方を巡っていた。
まぁそのお陰かはわからないが、トレーナーの資質が少しずつ良くなってきて、リーグトレーナーも喜ぶと共にこちらもレベルアップするためにと日々のトレーニングに磨きがかかっていた。
「…理由はあるのか?」
「理由?」
「そこまで嫌がるなら、何かしらの理由があるんだろう?と言うか話せ。納得いかん」
「最後のが本音か」
「ナナシ」
怒気を含んだ声色に、話さないわけにはいかないと思い、ナナシは手に持っていた書類をテーブルに置いた。
「幾つか理由はあるが、一番の理由がある」
「俺が納得出来る理由なんだろうな?」
「それはワタルが決めることだけどな。納得出来なくても私は出ない。決めたことだ」
「……理由を早く話せ」
「一番の理由は……これ以上仕事を増やしたくない」
「…………………………は?」
理由が理由なだけに、ワタルは話を呑み込めずにいた。ナナシもこうなると分かっていたため、苦笑したが話を進めることにした。
「今でこそ各地方のリーグの仕事は私にはあまり回っては来ない。スタッフの人数を増やしたこともあるが、私がチャンピオンだということもあってかリーグトレーナーたちの質が上がって、リーグを突破するどころか、ジムチャレンジする人間が年度によって変動している。良くも悪くも、影響を及ぼしたのは、この報告書類を見れば一目瞭然だ」
「…まぁ、確かに俺のところにまで来なくなったな」
「だが、ポケモンスクールに通う子供たちは増減がない。一度スクールに行ったことがあってな。どうやら実戦をスクールではやらないらしい」
「実戦経験がない上に、ジムチャレンジをしてそこで挫折する」
「そうだ。過去にきたチャレンジャーたちも口々に‘こんなこと教えてもらってない’‘こんなこと知らない’と言っていたくらいだし、恐らく最近の新人トレーナーはスクールを出ているものが殆どだったんだろうな」