アラド同人編(おひさま)

□アガメムノンの友情天使
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「サーモちゃんっ」
聞き慣れた声に顔を向ける。エレちゃんだ。
「エレちゃん…?」
いつもの可愛らしいブラウスに、ガーターベルト。ちょっぴり大人っぽくて、格好いい。
「極限の祭壇に行ってみた?」
「え?い、行ってないよ…?怖くて行こうかどうか迷ってたら閉まっちゃってて…」
私の悪い癖だ。
思い切りが悪いため、よくチャンスを逃したり、大事な約束を掛持ちで引き受けてしまい、どうしようもなくなってしまうこともある。
「そっかー、じゃあこれあげる」
手渡されたのは桃色に光るカード。
大陸に落ちるカードにはいくつか種類があり、モンスターの等級が低いと白色のカード、やや価値があるカードは青く光り、ボス級ともなると紫色に光るレアカードを所持している。
その更に上の等級…伝説の竜や魔界の王などの力が込められたカードが、今エレちゃんが手にしている桃色のユニークカードだ。
「こ、これって…」
『アガメムノンの智天使』と書かれたカード。
噂には聞いたことがある。
占い師のアイリスさんがこの極限の祭壇の出現を予知しており、その悪い力が世界を覆わないよう、祭壇の力のかけらである『天上のメダル』集めに腐心していた。
しかし当然一人で集める数には限界がある。そこでアイリスさんは冒険者のみんなに、今のカードと引き換えにメダルを集めるよう依頼したのだった。
その数、400枚。気が遠くなるような数字だ。
私はサモナーという職業柄パーティーが組みづらく、代わりにダンジョンの入り口で冒険者のみんなの会話をよく耳にする。
勿論、極限の祭壇の話も色々と聞いた。
『なぁ、メダル何枚集まったよ?』
『ああ?7枚だよ…ったく、全然集まらねぇ…』
1回頑張って祭壇を制圧して、漸く7枚。
祭壇はずっとあるわけではない。一時間のうち、たったの十分間しか開かない。
だから、一日寝ないで頑張っても20回行ければいいほうだろう。
目の前のエレちゃんはどういうわけかもう400枚も集め、このカードを私にくれたのだ。
「た、大変だったでしょ……いいよ、エレちゃんが使いなよ…」
私が返そうとすると、エレちゃんはそれを突き返した。
どうしたらいいのかわからずオロオロする私にいいからいいから、と押し付ける。
「それたまたま拾っただけだし、サモちゃんにぴったりじゃない?魔法が強くなるんだよ?私はみんなから色々くれるけど、サモちゃんはどうせ私からしかもらえないでしょ?だからあげる」
…確かにその通りだ。
だが、どうにもエレちゃんの様子がおかしい。
疲れたような、どこかイライラしているような。
だから私は、悪いと思いながらも彼女に一言添えた。
「でもエレちゃん……これ、力天使だよ…?」
「ええええっ!?嘘ぉぉっ!?」
慌てるエレちゃん。顔色が更に悪くなった気がする。
「う、嘘だよ!!ちゃ、ちゃんとメダル400個集めて買ったもん!!智天使のカード買ったもんっ!!」
涙目になるエレちゃんに、さすがに可愛そうになった私はカードを見せた。
「…ごめんね、エレちゃん」
刻まれたネームは、確かに『アガメムノンの智天使』だった。
「エレちゃん、すごく疲れた顔してて…でも聞いてもきっと答えてくれないだろうから、こうするしかなかったの…ごめんね…」
「さ、サモちゃんのばかあっ!!」
エレちゃんが顔を真っ赤にして私の胸をポカポカ殴る。痛くはない。
裏切られても、自分の努力が踏みにじられた発言をされてもなお、手加減をしてくれている。嬉しくて、私も涙を落とした。
「ありがとう、エレちゃん…」
エレちゃんの身体をふっと抱きしめる。いつもの優しい匂いと、おひさまのような温もり。
力を抜いた彼女は、サモちゃん、と一言零した。
「なぁに、エレちゃん」
何の取り柄もない私を、友達だと…親友だと思ってくれている。
「サモちゃん…大好き」
私も、エレちゃんのこと…大好きだよ。

おわり

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