贈り物

□あなたとユウ宝物と、練続した時を過ごす喜び
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嫌な夢を見た。
遠い遠い、昔の夢。
あたしが丁度、他人に恐怖し始めた頃の夢。
トラウマを植えつけられた学生時代。
友達もいない、落ちこぼれの学生だった。
そんなあたしをクラスメイトは阿呆だ頓馬だとことあるごとに馬鹿にした。
堪らなく悔しかった。
それをバネに、死に物狂いで努力して、遂に学園の主要科目である魔道学の筆記試験でトップの成績を修めた。
あたしは点数に見合う努力はしたと自負している。
だが、あたしが上に立つことが余程気に食わなかったのか、あたしを苛め続けていた主犯格はあたしがカンニングをしたのだと触れ回った。
今まで底辺の成績を取っていた上に、リーダーは頭がよく、世渡りが上手かった。
必死の弁明も甲斐なく、魔道学の教師は簡単に丸め込まれ、「落ちこぼれの卑しいカンニング女」なるレッテルを貼られたあたし。
当然、苛めはエスカレートし、終いには初対面の人にまで物を投げられた。
あたしが涙を落としても、教師は見て見ぬふり。
悲しいかな、どんな小さな社会でも、強く凶暴な狼は存在する。
だが、暴れ狂う狼に羊を差し出せば、狼の腹は膨れ、秩序が保たれる。
あたしは、学園と言う狼の生贄になったのだ。


「すごいうなされてたけど、大丈夫?」

「…やな夢を見たの。とってもやな夢」


忘れたい記憶って、どうしてこうも呪いみたいに脳裏にへばり付いているのだろう。


「…そっか」


目の前に寝転ぶ『彼』は、あたしが見た夢の内容を詮索することなく、代わりに寝汗で濡れたあたしの髪をぐしぐしと撫でた。
彼の名はユウ。天界出身のブラスターで、あたしの恋人。
途方もない身長差が気になるが、彼は気にしていないというか、割と世間体とかに無頓着なので、あたしの小さな身体を抱きしめてくれる。
いつも馬鹿なことを言って周囲を呆れさせるあたしでも、ユウくんの前だけは、本当の自分を曝け出すことが出来る。
情けない話、あの優しさの塊のフォロンちゃんの前でさえ、話しかけられると恐怖で膝が震えるのだ。
ユウくん以外の他人は怖い。
…自分以外は、怖い。


「ユウくん、ユウくん…」


あたしは縋る様に、彼の大きな手の平に触れる。
ちょっと熱い。あたしが単に冷たいだけかもしれないが。


「うん…」


彼はその大きな身体をぐっと前に押し出し、あたしの背中に腕を回した。
自分でも気付かなかったが、過去のトラウマに襲われた身体は、小刻みに震えていた。


「俺は練の恐怖を取り除くことは出来ないけど」


ぎゅぅ、と抱き寄せられる。温かい。
彼の温もりは、少なからずあたしを安心させてくれる。


「それでも、分かち合うことは出来るから」


あたしの身体の震えが、ユウくんに伝わる。
彼は大丈夫だよ、と抱きしめる力を強めた。


安心したら、涙が零れた。


「…ふぅっ……ぇうぐ…」


惨めな『ヒツジ』の涙じゃなく、感情を持った『ヒト』の涙。
…こういう涙は嫌いじゃないな。


「ね、ぇ…ユゥ……く…」

「何?どうしたの?」

「もうすこ、し…ぎゅ、して……」




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