アラド同人編(おひさま)2

□純愛剣士・初めてのぬくもり
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アラド大陸、ヘンドンマイア郊外。
使徒の転移やら次元の亀裂による悪魔襲来やら色々あるようだけれど。
僕たちは自由気ままな旅を続けている。
「すぅ……すぅ…」
隣でぐっすりと眠っているのは、僕の恋人。
僕の腕にしがみつき、赤ん坊のように安心しきった表情をしている。
彼女はソードマスターと呼ばれている、鬼剣士だ。
出会いは、今から半年以上も前のことだ。

~~~

「みんな、ギルドに新しい仲間が加わったぞ」
冒険者ギルドの溜まり場である酒場で、リーダーであるギルドマスターが声を張り上げた。
「………よろしく」
雪原のような、眩い銀色のショートヘア。
まだあどけなさの残る少女特有の、細く、しかし丸みを帯びた身体を包む漆黒の衣服は、どこか気品に溢れた上質なものだった。
吸い込まれてしまいそうな黒い瞳には、感情がない。
腰には幾本の鞘に納められた剣をかけており、彼女が剣士であることを物語っていた。
どよめきの声が上がる。男女共に多いギルドだったが、こんなにも美しい女性は、誰も見たことがなかった。
女性格闘家やシーフでさえ、彼女の姿に見入ってしまったようだった。
「名前は?」
「好きに呼んでくれればいい」
思わず立ち上がったメンバーの一人が聞くと、少女は無機質に返した。
「そ、そうかい……じゃあジェニーでもキャサリンでも……あるいはビッチでも?」
「構わない。そちらで決めてくれ」
「っ…」
男は冗談で言った風だったが、無表情で返されてしまった。
まるでこちらに取り入ろうとしない女剣士。
沈黙が、酒場を支配する。
そんな中、一人のメイジがあることに気づいた。
「ねぇマスター、その子…まさか魔手を……」
メイジの言葉に、ギルドマスターは言葉を詰まらせた。
少女もそれに気づき、左腕を押さえた。
「マジかよ……魔手って…あの?」
「ああ…やべぇんじゃねぇのか?」
ざわつきを見せる店内。無理もなかった。
長い時間をかけて封印方法を確立したカザン症候群、すなわち鬼手を持つ剣士とは違い、つい最近になって報告例が挙がった魔手。
魔手を持つ人間の、その力の封印方法はまだ完璧に確立されてはいなかったのだ。
魔手の力が暴走し、いつ自分達に牙を向くかわからない。そんな爆弾を抱えることになったギルドは騒然となった。
「とにかく」
マスターはすぐさま咳払いを一つしメンバーをまとめ上げ、僕を指差して言い放った。
「…まぁ、時間をかけて仲良くしてくれ。ほら新入り、お前が彼女を案内してやれ」
新入りの僕に拒否権はない。実力も半端だった僕は、所謂ギルドの雑用係だった。
「…はい。よろしくね」
「………」
握手を求めたが、少女は応じず、無表情のまま一度頷くだけだった。

~~~

僕の部屋に、少女を案内する。
かなり狭いけれど、部屋があるだけまだマシだ。
噂じゃ廊下や外で眠らされる新入りがいるらしい。
「ここが僕の…今から僕たちの部屋だ。さ、入って」
「失礼する」
鞘を空いたベッドに置き、腰掛ける。
ぎし…と、スプリングが沈んだ。
「………」
「………」
会話がない。
「あ、あの……君はどこから?」
何かきっかけを作ろうと、彼女の身上について聞いてみた。
意外な答えが返ってきた。
「ビルマルク帝国だ」
「帝国…!?」
ビルマルクと言えば、大陸でも最大級の力を誇る帝国だ。
「何で帝国から……その手は…」
「…今はまだ教えられない。すまないが、先に眠らせてもらうぞ」
言うなり、毛布に包まってしまった。一つ屋根の下で男女が別々のベッドとは言え眠ることになるなんて…。
すごい美人だった。髪からはいい匂いがして…。
ダメだダメだ!煩悩に支配されてどうする。
…向こうは僕のことを男としてまるで意識していないようだったが。
「はぁ……」
僕は嘆息しながら、悶々とした気持ちを抱えたまま眠りに着いた。
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