アラド同人編(おひさま)

□だいすきは、ないしょ
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幾多にも及ぶ躯が折り重なり、小さな山を形成する中、一人背の高い男が立っている。
心なしか足取りが悪く、少々ふらついている様子だが。
「…ペッ」
口に溜まった血混じりの唾液を忌々しげに吐き出す。
赤く染まる脇腹を押え、刺さったナイフを抜く。
同時に溢れるどろりとした粘度の高い血の塊。
それは、一瞬の油断だった。
敵を殲滅したと思い込んでいた天界の銃士・スピッドファイアは、瀕死のカルテル兵士に脇腹を刺された。
彼を援護する私設部隊『ブラックローズ』の面々も、この突然の事態に対応出来ず、頭で理解していても、体を動かすことは適わなかった。
鼬の最後っ屁、というやつだろう。スピッドファイアの腹を突き刺した男は満足そうな笑みを浮かべ、やがて事切れた。
男の一撃は想像以上に深く、スピッドファイアは口端から零れる血を拭き取りつつ、よろめきながらも最も近い病院目指し、歩いた。
肩を貸そうとしたブラックローズや、無線機から声をかけるニルスに、彼は作戦終了だ、と強引に解散させた。
「あ……アンタ…」
その途中出会った、最悪の人物。
「どうしたのよ…お腹痛いの?」
セミロングの桃色の髪。
大人の女の必須アイテムだと盲信しているガーターベルト。
いつもの華美なドレスの上に、寒さからかコートを羽織っている、小柄な少女。
火・水・光・闇。四つの元素を使いこなす魔法使いエレメンタルマスターは突然スピッドファイアの姿を確認し、露骨に狼狽していた。
「何でも…ねェ、よ…」
そう言うだけが精一杯だった。
そのまま力尽きたスピッドファイアは、音を立てて崩れ落ちた。
「ね、ねぇ…どうしたのよ!返事しなさいよ!!」
倒れる彼を揺さぶる。
「え……?」
にちゃ、と嫌な感触がエレメンタルマスターの手の平に伝わった。
恐る恐る、自らの手の平を見つめてみる。
「ひ…っ!!」
赤黒い血がべったりと付いていた。
「いやあああああああああっ!!」
彼女は喚きながら、泣きながら走った。
どこへ向かっているのか、彼女自身にもわからない。
転んでも、立ち上がり再び駆ける。
膝を擦り剥いても、痛みを感じなかった。
大切なドレスが汚れても、気にならなかった。
「あ…あ、あっ!」
荒い呼吸をする彼女の視線の先に、二人の人影。
ランチャーと喧嘩屋だ。
慌てた様子のエレメンタルマスターを見て、二人も立ち止まる。
「…どうしたんだい?」
背の高いランチャーは身を屈め、ぼろぼろになった少女に尋ねた。
「あ、あたっ、あたっし……と、さっき会って……お腹押さえてて、そのまま、た、おれて………ち、血が…どば、って…動かなくなってぇっ!!」
乾いた血が付着した手を見せながら語る話は支離滅裂もいい所だが、ランチャーと喧嘩屋はエレメンタルマスターの混乱を酷くしないためにも話を止めることはしなかった。
「あ、あんな、あんなに血がいっぱい……し、死んじゃう…!死んじゃうよぉ!!」
慟哭し、激しく取り乱すエレメンタルマスター。
喧嘩屋がすかさず抱きしめ、背中をさする。
「落ち着け!!……場所はわかるか?」
「あ……っち…」
僅かに理性を取り戻し、細い腕を震わせながらも元来た方角に向ける。
「わかった、すぐ行こう。たしか病院も近くにあったはずだ」
ランチャーが先頭になり、一同は倒れたスピッドファイアの下へと急いだ。
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