アラド同人編(おひさま)

□たったひとつのたからもの
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バレンタインデー。女性が意中の男性に想いを込めたチョコレートやプレゼントを贈る日。
「超モテモテのあたしだけど…今日は絶品チョコを作って、アイツのハートをがっちりキャッチ♪彼女としての地位をさらに強固に固めて揺ぎ無いものにしてやるんだから!!」
赤いロングヘア。尖った耳。くりくりっとした可愛らしい瞳。
紅白のシルクブラウスや灰色のミニスカートと組み合わせるのは、トレードマークのガーターベルト付きオーバーニーソックス。
恋する乙女…"自称"史上最強の絶世の美女『エレメンタルマスター』も、その例には洩れなかった。
厳選に厳選を重ね選び抜いた激甘の板チョコを湯煎し(最初鍋に直接入れ盛大に焦がした)、歪なハート型に固め、恋人であるスピッドファイアに手渡した。
端正な銀髪。整った顔立ち。長い足に高身長。…所謂イケメンというやつだ。
スピッドファイアは空の上の海の上、天界の都市ゲント出身の青年である。
百年も前の昔、暴龍王バカルなる男が天上世界における魔法使用の一切を禁止する『魔法弾圧政策』を布き、その際遠距離から襲来する敵に備え、魔法の代用として銃器が発明された。
彼らはそれを使いこなすために、ほぼ例外なく身長が高い。スピッドファイアも当然背が高く、小柄なエレメンタルマスターの二倍以上はあるだろう。
スピッドファイアはやはり歪なラッピングを施されたチョコレートをしどろもどろしながら渡す少女から頂戴し、自宅に持ち帰り苦いコーヒーで口の中を調整しつつどうにか完食した。
吐きそうになる位の甘さ。歯が折れるのではないかと思う程の硬さ。これが既製品なら、スピッドファイアはこの殺戮兵器を作り上げたお菓子メーカーにナパーム弾を撃ち込んでいたことだろう。
だが……あんなお子様とは言え、恋人が一生懸命作ってくれたチョコだ。
「うん……最近糖分摂取してねぇから丁度いいじゃねぇか…。噛み応えも十分…、歯を鍛えるには打ってつけだなこりゃ。……つか俺はこれを食べないと死ぬんだ。これを食うか、今すぐ断頭台に立つか…その瀬戸際なんだ…。頑張れ俺!!もう三分の一は食ったんだぞ!!」
軽い自己暗示をかけながら、バキバキと噛み砕く。
甘いものが苦手なスピッドファイアにとって、エレメンタルマスター好みの甘ったるいチョコを食べさせられるのは拷問にも等しかった。
十五分後。
「……任務(ミッション)……こ、完了(コンプリート)…」
全てを終えたスピッドファイアは、ガクリとソファーに倒れこんだ。
「お姫様よ……次はもうちょっと彼氏の好みを分析してから渡してくれよな…」
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