アラド同人編(おひさま)

□doll master
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『化け物!化け物!』
ハッ、ハッ…
きゃっ!
痛…
立ち上がらないと…また、苛められちゃう…
『オラ、捕まえたぞ!!』
あぐっ…やめて…蹴らないでぇ…
『俺さ、大きくなったらこういう化け物をいっぱい倒して英雄になるんだ〜』
痛いよぉ……
うぅ……うぇぇ…
『はは、泣いてるよコイツ。化け物のくせにさ』
誰か、助けて…
――
「っ!!…はぁ…はぁ…ふぅ…」
天城三階部分を支配する『石の女王』マスタードグリが勢いよく起き上がる。
息は荒く、着衣は乱れている。
「また……あの夢」
何回も見た、幼いころの夢。
同い年の少年少女に追いかけられ、叩きのめされる毎日。
理由は簡単だった。
自分が化け物だから。
生まれたときから頭に生えている翡翠色の水晶。
人間離れした不気味な深青色の髪。
感情が高ぶると地面から突如飛び出し相手を攻撃する鋭利な石柱。
「くっ……」
そっと自分の左足を撫でる。
彼女は脚が不自由なのだ。
町民の度重なるリンチで脚が折れ、添え木を当てられないまま骨が妙なつながり方をしたため、一生脚が不自由だろう。
そのため彼女は何をする際にも杖かこの城の城主「ジグハルト」が与えた浮遊石でできた台座を使わなければならない。
彼女は町人たちから化け物扱いされ、苛められ、逃げるようにこの天城へ足を運んだ。
力尽き、倒れたところにジグハルトが現れ彼女を介抱し、今に至る。
今まで人を好きになったことがないドグリ。
好きになろうと思ったことはある。
だが、向こうがこちらを嫌い、石を投げたり、あるいは暴力を振るったり。
ずぅっと、一人ぼっち。
気楽に話せる友達も、切なくなったときに抱きしめてくれる恋人も、彼女にはいなかった。
寂しさに狂ってしまいそうだ。
天城にはひたすらに皆己の任務をまっとうしており、誰も心を通わせてくれない。
嘆息し、一人杖をついてミドルオーシャンの海に向かう。
びっしょりとかいた寝汗を洗い流すためだ。
この城は奇妙な構造をしており、彼女らの住む一般的な城から、上層に行くと呼吸ができる海『ミドルオーシャン』に、さらに上に行くと、あらゆる物が重力を無視する『浮遊城』へと行き着くのだ。
どういう摂理かは、ジグハルトさえ知らないのだという。
しばらく歩くと、月明かりに照らされた大きな海が砂浜と共に現れる。
誰もいないことを確認し、衣服を脱ぎ去り、静かにミドルオーシャンに入る。
海の端っこ、小さなくぼみは彼女が見つけた秘密の場所。
ひんやりとした水が、彼女の心まで染み渡る。
「気持ちいい…」
寂しさを忘れるようにしばらく泳いだついでに髪を洗い、そっと陸に上がる。
手先が器用な彼女は衣服も自分で作っている。
髪や体を拭き、用意した代えの寝巻きを取り出して着る。
そしてまた、カツン、カツン、と杖をついて自室に戻っていった。
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