アラド同人編(おひさま)

□メイジと暮らす日常
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俺はごく普通の大学生だ。
このご時世だが運がよかったのかそこそこ良い大学に入学。講義では睡魔と闘いながら一日を過ごす。
サークルには入っているものの活動日が少なく、特に大学内の付き合いも薄いため、俺は定時に帰ることが多い。
電車内で小さくため息を吐く。講義で疲れた自分を労う意味も込めて。
俺はいまオンラインゲーム『アラド戦記』をやっている。
プレイヤーは現在6種類のキャラクターから一人を選んで冒険し、さらにそのキャラクターらは3,4種類の二次転職を受けることができるのだ。
例えば格闘家なら、打撃にこだわるストライカーや念を具現化して攻撃することに長けたネンマスターといった具合に。
また、二次転職を受けたキャラクターは一定のレベルになると、さらに強力なスキルが使用可能になる『覚醒』クエストを受けることができる。
俺は愛くるしい見た目と着せ替え用データ『アバター』の可愛い魔法使いの少女メイジを作っている。
この間その中の魔法に特化した職業、エレメンタルマスター通称『エレマス』がカンストした。
これでカンストしたメイジは魔法よりも武器を好んで扱うバトルメイジ、召喚士サモナー、そしてエレマスだ。
吊り革につかまりながらそろそろ学者用に新しくメイジを作ろうか…と一人で聞こえない程度の独り言を洩らしていた。
そうしている間に独特のトーンのアナウンスと共に目的の駅に到着。
財布から定期券を取り出し改札口にいれ、やや猫背になりながら駅を後にした。
徒歩数分で自宅マンションに到着。エレベーターを使い3階へ。
特に都心に位置しているわけでもなく、キッチンとトイレ、小さな風呂付きフローリング張りの1LDKマンション。家賃は実家からの仕送りで賄っている。
「今日夕食何食べようかな…」
冷蔵庫に入った残り物を思い出す。たいしたものは作れそうにない。
「まぁ、なかったらコンビニで食べるか」
もう進学先が決まった2年ほど前からここに独りで住んでいるため、こういうことを決めるのに迷うことはなかった。
独りはさびしい反面、自由な時間が多い。
だからこそビール片手にネットゲームなんて生活ができるのだろうが。
鍵を鎖し入れ、カチャリと手ごたえ。
ドアを開け、いつものように真っ暗な部屋で靴を脱ごうと…
「あ、お帰り」
電気のついた部屋、コトコトと鍋を煮立て、こちらを見る小柄な少女。
どこかで見たことあるような気が…
「あ、部屋間違えました。スンマセン」
入るべき部屋を間違えた俺は恥ずかしくなり部屋を後にした。
あーもう、なんで部屋を間違えたかなぁ…
……。
…あれ?
俺は先ほど飛び出した部屋の番号と鍵に刻印された番号を何度も何度も比較する。
それにさっき『お帰り』って…
「合ってる…よな。俺の部屋だよな?」
そうだ、今のはきっと見間違いだ。疲れているんだ。うん、そうに違いない。
深呼吸して、再びドアを開ける。
「急に出て行ってどうしたの?…お帰り、マスター。シチュー作ったけど食べる?」
夢じゃない。見間違いでも幻覚でもない。
どこかで見たようなツンツンしたリボンにこれまたどこかで見たような赤いウィンドヘア。人間離れした尖った耳の形。黒いレースブラウスが可愛らしいこの少女は…
俺は口を閉じることを忘れるようにあんぐりと開けて部屋を見渡す。
彼女の他にも二人の少女がちゃぶ台を囲んでいた。
黒いハーフタイヘアで頬を赤らめながら小難しそうな本を小脇に抱えた少女と長い金のツインテールで青い瞳が煌く、手に黒い甲具を嵌めた少女の二人だ。
「お前らって…いや、そんなバカな」
シチューの入った鍋の火を止め、赤い髪の少女が人数分の皿にシチューを盛る。
「うーん、確かに信じずらいよね。だからこそ、あえて回りくどいことは言いません。私達は、貴方の…貴方が手塩にかけて育ててくれたメイジです」
ハァ?と俺は首をかしげた。
「じゃ、じゃあ…なんだ、俺のエレ、バトメ、サモが現実世界に来たってこと?」
順々に残りの二人の少女を見る。
するとタイヘアのサモが赤い頬を更に赤くして俯き、ツインテールのバトメはにゃははと八重歯を見せながら笑った。
「まぁ、私たちも事情はよくわからないし。それよりマスター、お腹すいてるでしょ?ご飯食べよご飯」
さして大きくないちゃぶ台に一人の男(俺のことだが)と3人の美少女(大げさじゃないぞ)が周りに座るというのはいかがなものか。
エレマスがお手製のクリームシチューを人数分もってきてくれた。
「サモちゃんがパンも焼いてくれたんだよ。ちょっと冷めちゃったけど」
そう言って台所からこれまたサモナー手作りのフランスパンを出してくれた。
「あの、えと…お口に合うかどうか…」
サモはカァァ…と赤くなりながら俺のそばで身もだえしていて、なんと言うか抗いがたい可愛さを持っている。
「いや、嬉しいよ。ありがとう」
俺がそう言うとサモは不器用に笑った。
「じゃあ、食べよっか!」
ばちんとバトメが思い切り手を叩く。
対してサモとエレマスと俺はそっと。
「「いっただっきまーす!」」
「いただきます…」
バトメとエレマスが大きい声なのにサモは控えめだ。
俺も無言で頭を下げる。
「んーーーんっ!やっぱりエレちゃんサモちゃん料理うまいねっ!あたしは料理作れないもん」
やたらにシチューにがっつくバトメ。純粋無垢と言えば聞こえは良いが、行儀は全くもってよろしくない。
そして下半身も見えるちゃぶ台にスカートで胡坐をかくというのはけしからんと思う。下着が見える。
「そうかな?じゃあバトメちゃんも私と一緒に料理作ってみる?」
「うーん、面倒だからパース」
なんだか一気に姦しくなったな、と思いながら俺もシチューを一口すする。
「ん…確かにうまい。これどうやって作ったんだ?んむ、パンもいけるぞ」
シチューは牛乳がたっぷり入っているが、鶏肉や野菜の味を殺すことなく引き立てる役に完全に回っている。
パンも時間がたっていると聞いたが香ばしい匂いがちゃんと生きている。シチューに浸して食べるとさらに美味しい。
「ホント!?」
「あ、ありがとうございます…」
どうやらサモは二人に比べてかなり大人しい性格のようだ。否、引っ込み思案というべきか。
「ところで…」
俺は本題を切り出す。
「なんでお前らはここに来れたんだ?」
「うーん…」
エレが難しそうな顔をしている。バトメは相変わらずパンを貪っていた。
「それが、私たちにもよく分からないの。気がついたら、ここに居たっていうか…」
「三人そろって?」
「うん…」
訪れる妙な静寂。まぁ約二秒後にその静寂は打ち破られるわけだが。
「まぁさ」
ここでパンを飲み込んだらしい静寂破りの元凶であるバトメがニコッと微笑んだ。
「難しいことは抜きにして楽しもうよ、ね?折角お兄ちゃんにも会えたんだから、そーやって意味無いことに時間使ったら勿体無いよ?」
見た感じ一番知能が低そうなバトメが珍しくいいことを言った。言ったけど。
「…お兄ちゃん?」
俺のことか?
「そーだよー。あたしより年上だからお兄ちゃん。違ったかな?」
金髪が彼女の動きにあわせてゆらゆら揺れる。アリです。全然アリです。
「そうだな」
確かに、と付け加え、エレとサモが作った豪華な夕食を楽しむことにした。
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