アラド同人編(おひさま)

□ぷりぐりっ
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何だろう、胸が痛い。お腹が空かない。
ここ最近ずぅっと。
原因がわからない訳じゃないけど、わかりたくないというのが本音。
はぁ…、とため息を吐く。
ため息は不幸の始まりと誰が言ったのだろう。
もしその迷信が真実なら、不幸が連鎖して、どうしようもない。
救い難い不幸に、体が疼く。
誰もいない、私一人の静かな一室。
「んっ……」
込み上げる切なさを紛らわせるように、ベッドの上で自分を慰めるのはもう何度目だろうか。数えるのも億劫になっていたので、十回から先は覚えていない。
声、匂い、感触。
それら全ては妄想の産物。私はそんな偽の情報を頼り、都合のいい想像で自分を緩やかに壊していく。
「はぁ、はっ…」
頭の中の自分は『彼』と舌まで触れる口付けを交わし、温かい腕の中で次第に蕩けていった。
胸の大きさに自信はほとんどない。それでも、『彼』は笑うことなく撫でてくれる。それが嬉しい。
そのうち大切な場所を弄られ、私は布越しでも体を震わせて反応する。
「やだ…そ、んなとこ…恥ずかし…」
下着をそっと取られ、恥ずかしい所にも指が入り込み、私は悲鳴にも似た嬌声を上げた。
「ひあっ!い、いいよぉ…気持ち、いい…」
くちゅくちゅ音を立てながら私の秘部に入り込んでいるのは彼の指ではなく自分の指であることは当に承知しているが、考えたくなかった。
これは『彼の指』。そう思い込みたかった。
一つ屋根の下で共に暮らしていても、その胸の内を打ち明けられず、こうして陰気に想いを馳せることしかできない自分が悲しかった。
「あ、ダメ…きちゃう…あっ、あっ…い、ぁぁ…!」
小さな絶頂を向かえ、そこでふと現実に戻る。
当然『彼』はいない。自分一人だ。
「はぁ…はぁ…」
私は毛布に抱きつき、自らを慰めている自分を見つけた。
体は悦んでいても、心は沈む。
苦しい。
ふと首にかけた十字架のペンダントを見つめる。これは彼がプレゼントしてくれたものだ。
金色に輝くそれは歪んだ愛を覚えた自分を真実の鏡の様に映し出していた。
「うっ、く…えぐっ…」
自己嫌悪と自責の念に駆られた私は毛布に包まり、静かに泣いた。
…抱いてほしい。だけど。
私は化け物だから。
愛される資格なんて、ある訳が無いんだ。


頭に翡翠の水晶が生え、石の魔法を使いこなす異形として産声を上げた私は生まれてすぐに両親に嫌われ、友達も一人もいないまま、逃げるように天城に住み着いていたのだ。
この十何年間、私は人間の黒い部分ばかり見て育ってきた。
両親はどうやって私を殺そうか考えていたし、同い年の子供たちは私を見るなり罵声を浴びせ、遠くから石をぶつけた。
それでも生きていた私。親の心子知らずとは私のことかもしれない。ついにある日両親は町の男たちに、私を殺してほしいと頼んだのだ。
訳もわからぬままに数人の男に囲まれて、素手やら棒やらで殴られ、死に物狂いで石柱の魔法を使い何とか全員を葬り去ったものの、勝利の代償として私は左足を骨折していた。
「うっ、うっ…痛い…よぉ…」
ずるずるとナメクジみたいに這いずって帰宅すると、両親が驚愕の顔で私を見ていた。
「…お父さん?お母さん?」
「お前…なんで生きてるんだ!!」
いきなり怒鳴られ、私は困惑した。
「え?お、お父さん…わ、訳わかんないよ…」
近づくと、お父さんは近くの花瓶を投げつけ悲鳴を上げた。
「や、やめろ来るな!この化け物!!俺はまだ死にたくねぇ!!」
「お願いだから来ないで!」
「化け…物」
慌てふためく両親を目にし、幼い私も漸くそれで全て察した。私はここにいちゃダメなんだって事が。
私は泣きながら当ても無く彷徨って、いつの間にか天城に辿り着いていた。
足の痛みが治まるまで、じぃっとそのひんやりする空間の中で体を丸くして泣いていた。
それから私はずっと独りで生きてきた。
途中見つけた不思議な力で浮遊する石の台座を足代わりに、魔法で屋敷を建てた。
自生するマスクメロンやブドウで飢えをしのぎ、寂しくなったら人形を作り話し相手になってもらう。
が、所詮は人形だ。あまり温かみは感じなかったが、それでも大分寂しさは紛れた。
私は静かに生きていたかった。ここで誰にも迷惑をかけず、誰にも見つからず生きたかった。
だけど風の噂で私が生き延びていることを知った両親は復讐を恐れるあまり冒険者たちに私を抹殺するように触れ回ったのだ。
多額の報酬に目を光らせた冒険者が私が一生懸命長い年月をかけて作った館をメチャクチャにした。
悔しくて、私は叫びながら私の邪魔をする人間を魔法をかけた泥をぶつけて石像に変えた。
石像は少し弄くれば私に忠実な僕になるので警備には重宝した。
…こうして人形館で一人で暮らしてきたのだ。
誰にも頼ることなく、たった一人で。
なのに私は現在、ヘンドンマイアのロゼンバッハ大聖堂に住み込みで足の治療を受けている。
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