アラド同人編(おひさま)

□カノジョノキモチ〜First Love〜
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彼女と出会ってからもう1年になる。
喧嘩屋である彼女が営む『何でも屋』で初めて出会ったその日から見れば、彼女は大分明るくなった。
年に不相応とも言えるその無邪気な笑顔が、いつも俺を虜にした。
彼女は料理が並外れて上手く、また手先が器用で、去年…初めて二人で過ごしたイブには手編みのマフラーをプレゼントしてくれた。今も俺の首回りを優しく暖めてくれている。
彼女の家に遊びに行くと、あいつはいつも嬉しそうな顔をしてお菓子やお茶を用意してくれた。また俺もそうだ。彼女が遊びに来る日がとても楽しみになっている。
休日には二人で色々な所に出かけ、その都度楽しい思い出が出来た。
寒くなれば身を寄せ合って、一つの缶コーヒーを一緒に飲む日もあった。
仕事に失敗して落ち込んでいる彼女を抱きしめて慰めてあげた日もあった。
俺は俺で、彼女の存在そのものに甘えまくっている。
彼女の明るい笑顔に、今日もまた頑張ろうと思える。
俺は今幸せを感じているし、彼女もとても嬉しそうだ。
だけど。
時折見せる彼女の切なそうな横顔が、なぜか俺にどうしようもないほどの罪悪感を与えた。
決して見せようとして見せているわけではない。
その分、隠しきれない何かがあるのだろう、と俺は考えている。
恥ずかしいのか、申し訳ないと思っているのか。どちらにせよ、話して欲しい。話して、スッキリして、一緒に解決するための道を考えたらどうだろう、と近々言うつもりだ。
こんな事があった。
1月の始め、重火器が暴発し、その際に両手に大火傷を負い、使えなくなった時、彼女は俺の部屋に泊り込んで俺の身の回りの世話をしてくれた。
俺のために一生懸命、献身的に世話をしてくれる彼女にありがたいと思う反面、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
彼女が俺の部屋に泊まってから、最初の夜がやって来た。
気を遣ってかコタツで寝ようとする彼女を俺はベッドに誘った。やましい気持ちではなく、単に彼女の身を案じたのだ。大晦日に引いた風邪が治ったばかりでぶり返す恐れもあったから。
看病をするのも勿論億劫ではないが、やはり健康な状態で過ごしていきたい。
「そんなとこで寝ると風邪ぶり返すぞ…ほら、おいで。ベッド、二人くらいなら入るから」
と声をかけると、初めこそもじもじとしていたが、やがて子犬のように俺の元へ甘えてきた。
そんな可愛い彼女の体を抱きしめ、電気を消し、眠りについた。
しばらくして、俺は彼女の声で目が覚めた。
まだ朝には程遠い真夜中。
遠くから犬の遠吠えが聞こえる。
「……っ…ひぐっ…ふぅぅ…ひっ、く…うぇぇ…」
俺はすすり泣く彼女にどうしたのかと聞こうとした。
体調でも悪いのか、傷が痛むのか。それとも、風邪がぶり返したか。
だが、どうやら彼女は悪夢に魘されていた様だった。
「…お、父さん……ぉ母…さん……」
家族が離れ離れになる夢でも見ているのだろうか。
体を丸め、しきりに震え、涙を零していた。
「行か……ないで……」
彼女の消え入りそうな声は、まるで俺に向けて発しているような錯覚さえ覚えた。
俺は悪夢に震える彼女の小柄な、傷だらけの体を出来る限り優しく抱きしめた。
「大丈夫。俺はどこにも行かないから……ずっと、そばに居るから」
「えぐ、っ…………ぅ……すぅ……すぅ…」
やがて安心したのか、彼女は静かな寝息を立て始めた。
俺はそんな彼女を見て感じた。
彼女のことをわかっているつもりだった。だが、それは勘違いもいい所。彼女の事なんて、何一つわかっちゃいなかった。
「ごめんな……お前の気持ち…もっとわかってやれたらいいのにな…」
静かに呼びかけ、ひどい寝汗の所為でぺったりとくっついた彼女の艶やかな黒髪をそっと撫でてやる。
「ん……ぅ…」
と、彼女はくすぐったそうに身をよじった。
彼女の不安、恐怖、心配を、出来る限り取り除いてやりたい。それがずっとそばに居て守ってやると決めた俺の、しなければならないことだと思う。
しかし、俺は…彼女に一体何をしてやれるのだろう。
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