アラド同人編(おひさま)

□Let's Party!!
1ページ/8ページ

アラド大陸、その北方に位置する都市『ノースマイア』。
経済と貿易で多大な利益を呼び、繁栄を極めた『黄金都市』も、後に訪れた疫病の脅威には成す術も無く、統治者である皇帝を初め、町人全員が次々と息を引き取った。
幾年の時を経て、疫病すら死に絶え、無人となった『はず』のノースマイア。
しかし、遺された黄金目当てに侵入したトレジャーハンターや、地域調査に向かったデロス帝国の調査隊が、全員消息を絶つ事件が何件も起きた。
危機感を覚えた帝国の上層部は、急遽冒険者を調査に向かわせるべく、掲示板に募集を呼びかけた。
多額の報酬、帝国の英雄。目の前の餌に比べ、釣り針は…余りにも小さすぎた。
結果は調査隊の時と同じ。誰も帰って来ることは無かった。
ノースマイアに向かうものも次第に減って行き、今では零だ。
いよいよ焦りすら感じた帝国は、前代未聞の政令を出した。
『冒険者各位に告ぐ。帝国よりの通達。冒険者と名乗る者全て、掲示板前のリストに名を書く事』
ここまでは問題ない。冒険者は皆帝国の意図が解らぬままに、自らの名を刻んでいった。
問題は、その二日後に起きた。
『掲示板に署名した冒険者の全員はヘンドンマイア掲示板前のくじを引く事。背くものは以後、冒険者としての一切の権利を剥奪し、『帝国労働所』へと連行するものとする。尚、くじの結果は三日後、同掲示板にて記載する―デロス帝国―』
『帝国労働所』非人道的で理不尽な労働を強いられる、当に『牢獄』。数多くの犯罪者たちがここに収容され、その大多数が毎日何かしらで命を落としている。
過労、ストレス、睡眠不足による事故。
その存在と恐怖は、大陸に生きる者なら誰でも一度は耳にしたことがある程だ。
帝国としても、これは賭けだった。
こんな法令、帝国全体の信用が落ちるのは目に見えているし反対が起きることも承知している。しかし、かつては『黄金都市』の異名を持つノースマイア。探れば金銀と言った財宝の類はいくらでも見つかる筈だ。
もしこれで冒険者が皆神隠しに遭えば、そのときは帝国軍を総動員してノースマイアに向かわせる。
それまでは、一切手を汚すつもりは無い。
冒険者に、今まで以上の報酬を渡したとしても、メリットの方が大きい。
名を連ねてしまった冒険者たちは、連日渋々ながら掲示板の前に集まり、先端に色を塗られた木の棒を引き当てていた。
くじには全て色が塗ってあった。
黒、赤、黄、白、緑、青、橙、金などなど…。
それらは不正が無い様にテーピングされ、各自自宅でそのテープを剥がして結果を見る様に、との事だった。
しかし、くじ引きと言っても、それは名ばかりであった。
くじ引きから、三日が経過した。
今日、結果が掲示板に貼られる。
「お…オイ、どう言う事だよ…これ…」
「ふざけんなよ!!俺は絶対嫌だぞ!!」
冒険者全員が引いたくじ全てが、『当たり』だった。
『デロス帝国より通達。今日午後よりは「赤色」のくじを持つ者がノースマイアに向かう事。「当たりくじ」を引いた冒険者に如何なる障害が降りかかろうと、それは帝国の責任外とする―デロス帝国―』
ご丁寧に。
逃げ口上まで作ってあった。
誰も好き好んで、『死の街』へ行く者などいない。
故に、無理矢理にでも赴かせるのだ。
「あたし……あ、赤だ……い…い、嫌あああああああ!!」
実際、赤色のくじを引いた、年端もいかぬ魔法使いの少女は耳を塞ぎ込み、泣き叫んでいた。
きっと後数分、この冒険が『二人組で行くものとする』ものだと知らなければ、あるいは失禁していたかも知れない。
何が潜んでいるか解らないノースマイアに、一人で行くのは無謀すぎる。かと言って、大人数で行くとそこに暮らす『何か』を警戒させ、黄金の情報を得られなくなる可能性もある。
二人組のパーティーで行くのが得策だと帝国は考えたのだ。
「俺も赤だ!!」
「えっ…?」
名乗りを上げたのは筋骨隆々とした大柄な体躯のインファイター…否、百戦錬磨の輝きを持つ両腕の青白い光『ベオナル』を持つのは、新たなる活路を、戦闘スタイルを見出した覚醒せしインファイター『ゴッドハンド』であった。
「大丈夫だよお嬢ちゃん。二人で行けば…なぁに、怖くなんて無いさ」
そんな彼の声も、僅かながら震えていた。
だが、これ以上恐怖を彼女に与えるわけにはいかない。
一緒に冒険に行くパートナーが力を発揮できなければ、今までノースマイアに行った奴らの二の舞になってしまう。
だからこそ、パートナーとの絆を深めておく必要がある。
「おじちゃん……ほんと…?」
涙目になりながら尋ねる少女に、男は恐怖を誤魔化すように豪快に笑った。
「ガッハッハハハ!!俺はまだおじちゃんって呼ばれるには早い年だけどな」
バンバンと少女の華奢な背中を叩く。
「お、おじちゃん、痛いよぉ〜!」
少女の顔に、笑顔が戻る。
「スマンスマン、力加減を誤っちまった…さぁて、どっかで腹ごしらえして、いっちょ肝試しと洒落込むか!!」
「うん!!」
このやり取りから二時間後、デロス帝国国立軍本部。
『番号01―赤、定時にノースマイアに侵入』
カタカタと小さな機会音を出しながら、電報が動く。
『一日経過。現在赤より連絡無し』
報告を書かれた紙を根元で破り、内容を見た本作戦の責任者であるデロス帝国将軍は、タバコを懐から取り出し、火を付ける。
紫煙と、熱を帯びたタバコが赤く光るのが鼻の下に見える。
カツカツカツ、爪先で何度も机を叩いていた。
『三日経過。消息―不明』
はぁ…と溜息。
返信の電報を打ちながら、本日五本目になるタバコに手を伸ばす。
タバコは身体に毒だと家内が口が酸っぱくなる程に言っていたが、今回ばかりはその禁煙条例を解除する方向に動いた。
イライラが収まらない。ムシャクシャする。
『五日経過。赤、死亡と断定』
「まただ」
将軍は電報を最後まで読むこと無くくしゃくしゃにして、うんざりした様に吐き捨てた。
ギシッ、と乱暴に椅子にもたれる。その拍子にかぶっていた軍帽がずれてしまった。
舌打ちをしながらも帽子の位置を直す。
「こいつらも…『ハズレ』だったか」
くじ引きをしようとしまいと、神隠しに遭うのは変わらなかった。
これ以上冒険者を投入するのは最早無駄でしかない。
だが上からの命令の手前、失敗でした止めましょうとは口が裂けても言えなかった。
「おい、聞こえるか」
少々聞こえが悪くなったマイクをトントンと叩き、声を掛ける。
通信先は、デロス帝国軍広報部。
『はっ!何でありましょう!』
すぐに若い部下の声が響く。
ザッ、と音がする辺り、上官である将軍に敬礼でもしたのだろう。
将軍は満足げに頷き、続ける。
「…明日、次の色を行かせる。次は……」
少し息を吸う。タバコに汚染された肺は、この程度の運動ですらない運動でも悲鳴を上げた。
「緑だ」
『はっ!』
間髪入れない返事に再び頷き、頼むぞ、とマイクのスイッチを切った。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ