アラド同人編(おひさま)

□お兄ちゃん、だーい好きっ!!
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「あめ……」
ポツリと、雨粒が零れる様に口にする。
それが土砂降りになるのには、さして時間を必要としなかった。
「雨雨雨雨ぇぇ!!なんなのよもぉっ!!マークウッド!?マークウッドなのここは!!」
……。
我が親愛なる祖国には『梅雨』なる時期が遅かれ早かれ到来する。
しとしとと静かに長い雨が降り注ぎ、屋内の湿度は上がり、不快感ばかりが募る、有り体に言って嫌な時期だ。
ちなみに彼女達が暮らしていた世界『アラド大陸』は、時折桜吹雪や雪が降るものの、毎日が晴天で心地よい太陽がさんさんと降り注いでいる。
彼女の言う『マークウッド』は例外的にぽつぽつと雨の降るダンジョンのことだ。
「いやさ、今そういう時期なんだから我慢しろって。な?」
「はぁ……はぁ………はぁっ…」
必死に宥めると、ようやく少女は落ち着きを取り戻した。
「…だって……」
代わりに、物凄い泣きそうな顔をされた。
「今日、バイト休みで…お兄ちゃんも今日だけは講義無いから、一緒にでーと行こうねって約束してたのにさ…」
今日は休校日。創立何十周年記念日とかいう特別な日らしい。
『自称』妹は幼い身体を震わせ、発せられる言葉には僅かに嗚咽も混じっていた。
「……悔しいよ」
ぎゅっと瞑る目には、こちらも雨粒が。
自慢の長い金髪ツインテールもしょんぼりとしていた。
余程楽しみにしてたんだな。
「じゃあ、家で遊ぼう。お前が好きなことでいいからさ」
「本…当……?」
そこで笑顔が戻る。
「ああ。何したい?」
すっかり機嫌の直った妹・バトメはちょっと待ってて、と慌しく走っていった。
そして、意外と早く戻ってきた。
「これ。これやろっ♪」
手にしているのは、古びた1枚のゲームディスク。
昔ハマッた、ありふれた格闘ゲームだ。
ただ遊ぶだけじゃつまんないよね…と独り言。
そしてハッと何かに気付いた様。
「これで勝負して、勝った人の言う事を今日一日聞く、ってのはどう!?」
言っちゃ悪いが、こいつには負ける気がしない。
ハマッただけあって、昔は最高難易度をノーコンティニューでクリア出来る程度の腕は保持してた。
飽きてしまった今じゃ少々腕も衰えているが、間違ってもバトメには負けないだろう。
「ああ、いいぜ」
さっさと勝利してこいつを適当にこき使ってやるかな。
肩を揉ませたりお茶を運ばせたり…
「さ、やろやろ!」
「ああ、慌てんなって」
早速ゲーム機にセットし、電源を入れる。
会社ロゴが効果音とともに映し出される。
「俺の持ちキャラは……っと」
俺が使用しているのはゲーム内では三強と言われているキャラ。
素早い動きで敵を翻弄し、一気にコンボを叩き込むのを得意とした忍者ファイターだ。
「あたしはねー…これ!」
バトメが選んだのは玄人は…もとい初心者でも使うことはないだろう弱小キャラ。
ゴツいプロレスラーのクセして防御が弱く、投げ技のコマンドの反応も悪いために全然使えない。
ま、軽ーく叩き潰してやるか。
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