アラド同人編(おつきさま)

□奴隷人形師
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「彼女の名前は『マスター・ドグリ』。彼女は、転移による影響で、石の能力を持つ少女になり、人形館へ逃げるようにすんでいます…そこで―」
ウェストコーストに居るダークエルフの話を適当に聞き流し、4人は人形館へと向かっていく。
全員が全員50レベルを超え、レベルが30にも満たないドグリなぞ武器なしでも余裕で倒せる。
彼らは別にクエストをクリアしにきたわけではない。
「おい、さっきの話じゃ、石の能力を持つ少女っつってたよな」
リーダーの狂戦士が声を荒げた。
「ああ、14,5歳だろ?石にする能力がちょっと厄介だな」
ランチャーが続いた。
「問題ないだろ。いざとなれば、俺が何とかする」
とインファイター。
「ま、素っ裸で突入しても死なないでしょ?しかし楽しみですねぇ、ご無沙汰してましたし」
長身のメカニックが最後に言った。
『楽しみ』が始まろうとしていた。

――ずいぶん、昔のことを思い出した。
生まれたときから、大きな翡翠色の水晶を頭に生やした私は、両親から気味悪がられ、ほとんど世話をしてもらえなかった。
友人もおらず、いつも一人ぼっち。
なんどもなんども、この水晶を呪った。
友達ができないのは、この呪いのせいだ。
どうして、自分ばかりがこんな目に遭うんだろうかと。
町に出れば石を投げられ、逃げるように閉じこもった。
成長していくにつれ、両親は腫れ物を触るように私を育てた。
ある朝、いつものようにローブを羽織り、散歩をしていた。
聖職者のように、頭を隠し、静かに歩いていれば私だと誰もわからないだろう、と思っていた。
「おい、いたぞ」
え?と思っている間に、私は十数人の男に囲まれた。
「この化け物が…呪いが移ったらどうするんだ!?え?」
有無を言わさず、棒で殴られた。
「あぅっ!」
地面に倒れた私を、男たちは何度も何度も殴った。
「いっ、やぁ!!いたぃっ!」
逃げようと、這って離れようとする私の脚に、思い切りの一撃が振り下ろされた。
ぼぎり、といやな音と、激痛が走った。
私の細い脚は、あっさりと折れた。
「ああああああああ!!」
「ざまぁみろ!化け物風情がッ!!」
ヒャハハハハと笑う男たちに、私の中で何かが弾けた。
気がつけば、地面から生えた石柱で串刺しになった男たちが居た。
後にわかったのだが、私のこの能力は『オズマの転移』によるものだとか『カザンの呪い』だとかそういった類のものらしい。
そして、この男たちを仕向けたのが両親だともわかった。
もう、誰にも頼れない。
絶望しきった私は、死に場所を探すかのように当てもなく歩き続けた。
適当に見つけた木の棒を脚代わりにして。
何日、歩いたことだろう
疲れ果て、巨大な塔のようなところで倒れた。
「…パターン、『人外生物』。『転移』被害ノ確率―96.2%。敵意―無シ。『ばかる様』ノ名ノ元ニ…連レテ行クナリ」
眩い…
綺麗な…『人』…?
薄れ行く意識の中、私は彼に抱きかかえられ…
そこで意識が無くなった。

「ようこそ、天城へ!!」
派手な声が私を迎えてくれた。
薄目を開けた私は座り込んだままきょとんとしていた。
天城…?この建物のことか?
青い服を着た髪の長い麗人が自己紹介を始めた。
「私はケラハ、こっちはビノーシュ」
どうも、と赤い服の姉(もしくは妹か…?)が、ぶっきらぼうに挨拶をした。
「ゲギャアアア、グギャギャアア!」
青白い竜人がけたたましい叫び声をあげる。
「あー、この子はラキウス。ごめんね、アラド語がうまく話せないの。悪い子じゃないわ。歓迎してくれてるわよ」
戸惑う私に優しくケラハが教えてくれた。
「ゴールド…プラタニ…村谷、違う」
巨大なゴーレムがそう言った。
村谷って…誰だろう?
「我輩はヘブンエクスペラーである!貴殿にあえて光栄である!」
甲冑を着た騎士がうれしそうに大声を上げた。
「ここに居る人は、みんな『転移』の影響を受けた人たちよ」
…確かに、変わった人が多い。
みんな、私と同じ境遇に遭った人たちだろう。
つらい過去をもった人たち…
私は、あることに気がついて。
「あ、あの…」
私は小さく、おずおずと聞いた。
「何かしら?」
ケラハが聞いた。
「あの、光る眩しい人…?は…」
彼が私を助けてくれたのだ。
直接、お礼を言いたい。
「ああ、ジグハルト様の事ね。ジグハルト様はこの城をおさめていらっしゃる方よ」
ジグ…ハルト様…
ひそかに、私は胸が高鳴っていくのを感じていた。
「あーら、もしかしてジグハルト様に惚れちゃった?」
「ち、ちがっ…!!」
思い切り慌てる私にケラハが笑った。
「照れちゃって…可愛い♪」
でも、これが…恋なのかな…?

翌日、私に部屋が与えられた。
部屋というよりかは、城の3階部分をそのままもらったかのような。
そして、ケラハがジグハルト様が与えてくださったわ、と石の台座を持ってきた。
アラド大陸は、私たち『転移者』の能力を極端に制限するらしい。
石の台座に乗り、初めて能力が開放された。
その台座は、『バカル』とやらの力が込められているらしく、私が乗ると、私の意思に従って動いた。
「あなたに与えられた仕事は、ここにきた侵入者を石にすること。わかった?」
「はい…」
もう、化け物として生きていくしかないんだ。
ジグハルト様は、私に居場所と、『マスター』の称号を与えてくださった。
彼に振り向いてもらえるよう、精一杯努力しよう。

「マスタードグリ様!『侵入者』です!」
私に似せた石像である『人形師』が告げた。
「そうか…各員侵入者を石にせよ。『シャレド』の使用も許可する」
また、愚かな冒険者が現れたようだ。
いったい、いくつの冒険者を石にしただろう。
私の居場所のため、ジグハルト様のため、ここを制圧されるわけにはいかなかった。
来れるものなら来るがいい。
お前たちも、石にしてやる!
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