アラド同人編(おつきさま)

□dark crusader
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アラド大陸―ヘンドンマイア―
この町には、有名な酒場がある。
『月光酒店』と呼ばれるそこは店主が絶世の美女で、そこで出される酒や肴が美味しいのも評判のひとつだが―。
ここでいう『有名』とは別の意味でのものだ。
「トアー!!」
「ぐわあぁっ!」
鬼神カザンの呪いにより左手が鬼と化した剣士、通称『鬼剣士』がその手に持つ大きな刀で銃を使いこなす長身の男を薙ぎ払った。
どうやら峰打ちらしく、倒れたガンナーも苦笑いをして鬼剣士が差し伸ばした手をつかみ、立ち上がった。
集まっていた観客たちもやんややんやと手を叩く。
ここでは広い店内の一部を使い、冒険者同士での決闘が帝国で公認されている稀有な店なのだ。
椅子やらテーブルやらを端に寄せ会場を作り、そこに立ち寄った腕に覚えのある冒険者たちがその力をぶつけ合い、時には友情を、時には復讐心を養っていく。
決闘で勝ち上がっていく者は人々から『至尊』『達人』と呼ばれるようになり、その栄誉を手にするために日々鍛錬する冒険者もいるほどである。
今夜も月光酒店は酔客と冒険者とで賑わっていた。


「えぇい!」
背丈の倍異常の長さの棒を振り回し、精進に精進を重ねた格闘家を吹き飛ばしたのは。
「えへへー。私の棒術、すごいでしょっ?」
一人の幼い少女だった。
真っ黒なブラウス。赤地が目立つスカート。小さな両の掌にすっぽりと収まるのは同じく小さなガンドレット。桃色の髪に大きくてくりんとした赤い瞳、そして尖り気味の耳が、魔族の証だ。
少女はバトルメイジだった。
『チェイサー』と呼ばれる魔法の玉と自らの体術を組み合わせ、さらに棒や槍を使った独自の戦闘方法を採用するメイジをバトルメイジと人は呼んでいる。
小柄で華奢に見えるが、その攻撃は素早く、熟練の冒険者も視認が難しいとされる。
『蝶のように舞い、蜂のように刺す』とは彼女のことであろう。
「うーん、私に勝てる人はもういないみたいね♪」
事実、彼女は類を見ない早さで至尊の座を勝ち取っていた。
それまで至尊と呼ばれた先の格闘家は歯噛みし、何も言わず去っていった。
その傲慢な態度が嫉妬心を生み。
嘲るような笑みに怒りが芽生えた。
彼女に敗れた多くの冒険者が、その小柄な体が地に臥せることを願い続けた。
ある意味では、それは叶ったのかもしれない…。
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