アラド同人編(おつきさま)

□愛の形
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今日も、傷が生まれた。
悲鳴続きで喉が擦り切れそうだ。
私が苦しむ姿を見て、目の前の軍服の男の人はとびきりの獲物を見つけた肉食獣の様に笑った。

オレンジ色の軍服を着た彼は、私への暴力を愛情表現だよと微笑む。
だがその笑顔は、少なくとも私を怖がらせた。
彼が笑うたび、私に傷が増えた。
昨日は思い切り腹を殴られた。勢いで嘔吐すると、お仕置きだ、ともう一度殴られた。まだ殴られた腹が青黒い。
一昨日はスタンガンを浴びせられた。強力な電流が体を駆け巡り、思いがけず失禁をしたが、もう慣れた。スタンガンを食らったのはこれで7回目だから。
彼の度重なる暴力で、私は片目の視力が著しく落ちた。歯が3本折れた。顔や体のいたるところに痣が出来た。内臓のどこかが潰れたらしく、この間は血を吐いた。
そして無理矢理とは言え、お腹に宿した新たな命も……3回とも堕ろさせられた。私は彼に女としてはおろか、人としてさえ扱われていない。
酒場で声をかけられ、振り向いた瞬間何かの薬品で気絶させられ、気が付いたらここに監禁されていた。
絶対服従として首輪と手錠を着けられ、誰が主か教えてやる、と最初に彼の部屋に来た日は気絶するまで体中のありとあらゆる部分を殴られ、蹴られた。
泣き叫んでも、謝っても、笑うばかりで攻撃をやめなかった。
格闘家としての私はあの日殺され、同時に奴隷としての私が生まれた。
「ほら、出ておいで」
彼の優しい猫なで声が私を震えさせる。
『いつもの時間』が訪れた。
彼が私に近づき、首を思い切り絞め上げたのだ。
「うぐ……ぁ……」
「苦しい?」
息を大きく吐きながらながら頷くと、彼は笑い、首を絞める手にさらに力を入れた。
「ぐぇ……えっ…!?」
肺に酸素が行き届かず、体を揺らし必死に振りほどこうとしたが、今までの『愛情表現』による痛みや疲労が蓄積し、最早抵抗するだけの体力は残っていなかった。
「いい顔だ…」
彼は笑顔を貼り付けたまま、私の首を絞める。
「…ご……ぉぇ…」
胃液が逆流し、口端から泡になって零れた。
「ごぼ………お…」
涙が意味なく流れる。
「愛してるよ……。今は、な」
悲しみか、怒りか、憎しみか。
…わからない。
「…………」
様々な思いが巡る中、私はついに力尽きた。
白目を剥き、肩がひくひくと痙攣する。
それを確認した彼が、手を離した。
ドサリと床に倒れる私。
「……っはあぁっ!!」
汚れた部屋の淀んだ空気が一気に体に送り込まれ、私は涎を垂らしながら激しく咽込んだ。
「がはっ!…ごほっ!!げほっごぼっ!!」
首には真っ赤な指の跡。
「は………ぁぉ……」
ドボッ!
「えぶっ!!」
「いつまで寝転がってんだ?」
鳩尾を強く蹴られ、堪らず吐瀉する。
「おえっ……げっ…ごほ…」
立ち上がれないと判断した彼は、私の髪を乱暴に掴み立ち上がらせる。
彼の濁った瞳に映る私の顔はもう、ボロボロだった。
「俺はお前を愛してるんだぜ?」
言い、顔を殴った。
口の中が切れ、血の味が広がる。
痛みから、私は遂に泣き出した。無駄なことだとわかっていながら。
「ひぐ……も……許して…くだ、しゃい…」
これが、私の、彼に対して出来る唯一の抵抗だから。
大人気なく泣きじゃくり、血混じりの涎を零しながら慟哭する。
彼は一瞬だけ眉を顰めたが、すぐに私の腹に拳を入れた。
「ごほ……っ」
「許す?何を?」
ドボッ、ドブッ、ドンッ!
「げぶっ!…おっ……げぼ…っ」
彼が満足し、手を離した時には、私の意識や思考は殆ど奪われていた。
「じゃ、また明日な」
ファストフード店で買ったらしいすっかり冷めたハンバーガーを無造作に投げ捨て、彼は去った。
取り残された私は、芋虫の様に這いずって食料に近づき、生き延びるために口で包装紙を不器用に開け、がむしゃらにそれを食べた。
口だけではうまく包装紙が開けられず、破れた紙ごとハンバーガーを口にした。
ズタズタに傷ついた口にマスタードがしみる。
ぼろぼろの身体は食べ物を消化するのを拒んだが、がんばれ、きっと助かると自分自身を励まし、懸命に嚥下した。
長い時間をかけて食べ終わり、再び泣いた。
「…お父さん……お母さん…」

助けて。

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