アラド同人編(おつきさま)

□堕壊
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ずるぅり……
ベチャッ。
背後から抱きかかえられ、その様子を無感情に見守る。
「うぐ…は……ぁぅ…」
また、聞こえた。
胃がむかむかするような粘液の音。
同時に襲う、下腹部の痛み。
何かがひり出る感触。
「ガギャァァッ!」
耳に痛い、羊水に包まれた生まれたての獣の咆哮。
「ガ、ガハッ、ギャァッ!」
周りで見守る化け物…竜人が、幼い母親の、その酷使されて黒ずんだ性器から産み落とされた子竜の臍の緒を乱暴に爪で切る。
「あぐ…っ」
もう自分とは無関係になるであろう胎盤に繋がれた臍の緒であっても、引きちぎられる感覚は今でも嫌なものだと他人事のように思った。
また次の日から、誰とも知らない幾人もの竜人に犯され、子供を孕む羽目になるのだろう。
檻に囚われ、衣服を全て奪われ全裸となっている幼い魔法少女、メイジは濁り果てた瞳で彼らを見つめ、何を思ったか、小さく息を吐き出した。

六ヶ月前。
黒のブラウスに、ふわふわのスカート。
桃色の髪は後ろで二つに束ねられ、くりんとした紅い大きな瞳が可愛らしい。
新米メイジの少女は、黒妖精の魔女であるシャランの依頼で、港町ウェストコーストに突如出現した巨大な塔、天城を調査することとなった。
メイジとは、体つきは人間と殆ど変わらないが、手に持つ杖や棒に魔力を宿らせ、それを具現化し敵を攻撃することが出来る魔法使いを総称する。
100年も前のアラド大陸、『暴竜王バカル』とやらが作り出した建築物が、現在になって『転移』の影響で現れたのだと、シャランは言った。
この間だって、グランプロリス最強と呼ばれた魔女、ビノーシュを辛くも倒すことが出来たんだ。
だから、この程度のダンジョン、どうと言うことは無い。
メイジは己の力を過信し、パーティーを組むべきだと言ったシャランを無視し、単身天城に乗り込んだ。
天城は涼しくもあり暖かくもあり、俗世から離れているような、異質な空間だった。
樹木は一本も見えないが、どこか緑の香りが鼻を擽った。
人工的に造られた石畳のところどころに散らばるのは風化した獣の骨。少しだけ気味が悪い。
ちょっとした観光気分で周りを見渡しながら歩いていたときだった。
「キキャアアアア!」
突如、布を裂くような鳴き声と共に、小型の翼竜『セルマリオン』がメイジに襲い掛かった。
「出たわね…!ええぃ!」
黒壇樹と呼ばれる黒く硬い老木で作られた杖を振り回すと、その先端から火球が飛び出し、セルマリオンを撃墜した。
羽を焼かれた翼竜はしばし石畳の上で悶絶していたが、やがてぱたりと事切れた。
「意外とあっけないわね……」
やっぱり一人でよかった。パーティを組むと敵が高価な武具や宝石を落としたとき、どっちが拾うかでひと悶着が起こることがあるからだ。
面倒ごとは少ないに越したことは無い。
「シャラン様、心配しすぎ」
私一人でも楽勝じゃない。
鼻歌を交えながら、次々と子竜や、人型の中型白色竜『ミルキウス』を倒すメイジ。
「ここがボス部屋ね…」
少々疲れを覚えたが、ポーションを口に含み体力を回復する。
紅く光る門をくぐり、ボスと会い見えた。
「…ラキウス……竜人を束ねる頭領…」
彼女の瞳に映る、青い竜人。
体格はミルキウスと変わらないが、どこか強靭なオーラを放っていた。
長い二又の槍を手に、ただじっと侵入者であるメイジを睨み付けていた。
一方のメイジも、愛用のスタッフをぎゅっと握り、ラキウスと相対する。
なるほど、ミルキウスとは圧倒的に格が違う。
「くっ……」
じり、と僅かに後退する自分を見て、はっとなった。
恐怖している。目の前の強敵に。
「…えいっ!」
手の平に魔法の力を込め、それを星型の弾丸として発射する『マジックミサイル』で牽制を兼ねて敵の様子を伺うことにした。
だが、実戦経験の浅いメイジの目論見は、あっさりと破られた。
「う、嘘………」
ラキウスに向かい真っ直ぐに飛んだマジックミサイルは、その身体に当たる直前、ラキウスが二人に分身する、という形で避けられた。
「幻影…ね」
冷や汗をひとつ流し、零した。
以前シャランに習ったことがある。
上級の魔法使いや魔法生命体は、時に自らの幻影や分身を生み出し、相手を困惑させることがあるそうだ。
もっとも、実体が無い場合が殆どであるが。
だが、見分けるのは難しい。
打開策を考えている間にも、メイジは二人のラキウスに挟まれる形で立たされていた。
「え、ええいっ!!」
半ば自棄になったメイジが振り向きざまに再びマジックミサイルで、背後から襲い掛かるラキウスを攻撃した。
「グギャッ!」
それはラキウスの胸元に当り、大きく仰け反った。
つまり、先ほどまで前にいたのは偽者。後ろから不意打ちをかけたのが本物だ。
確信したメイジは身体を背後にいたラキウスに向け、続けてマジックミサイルを用意する。
私の勝ちだ。
所詮、竜人の頭脳では人間のそれに勝てなんだ。
「これで終わりよ!!」
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