アラド同人編(おつきさま)

□催眠陵辱館〜格闘家編〜
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田舎町ヘンドンマイアの西の外れの小さな森。
かつては小動物や妖精が平和に暮らしていたのだが、異次元からの物質移動『転移現象』が起こってからは一変した。
下等で醜悪なゴブリンや牛人タウが暴れ始め、異界の気に侵された魔女は自身の持つ魔法を悪用し、森を焼き払い、対峙する者を凍らせたりと悪事の限りを尽くしていた。
そんな不穏な空気漂う森の入り口に、一つの影が。
「ここね……」
彼女は底の厚いブーツや厚手の手袋で命ともいえる手や足を保護し、長い黒髪は動きやすさを考慮して一つに束ね、機動性を重視した末、布地を極限まで切り落とした目のやり場に困る格好をしている。
ザッ、と足音を響かせ、その奥を隠すように生えた木々を見つめるのは格闘家の少女。
アラド大陸の辺境地、スジュに古来より伝わる武芸を幼い頃からの厳しい修練にて会得した者を全般的に格闘家と呼ぶ。
蹴りや殴打などの格闘術を極めることは勿論だが、自身の体内に流れる気を具現化し攻撃する『念』を主軸として戦いを行う格闘家"ネンマスター"や、柔術の極意を悟り、相手といかなる体格の差があれど力学やてこを利用し投げ飛ばしてしまう"グラップラー"、砂かけや毒針の利用、倒れている相手への追い討ちなど、勝つことのみに執着する"喧嘩屋"などその幅は広い。
彼女はまだそれらの境地には達していない、所謂半人前の格闘家だ。
修行の一環として、行方不明になっている魔法使いの少女を捜索をしている。
森に一歩足を踏み入れると、棍棒を持ったゴブリンや猛禽類の変種『ルガル』から手厚い歓迎を受けた。
「ヤァーッ!!」
格闘家はそれらを一蹴する。蹴りを放った時、僅かに身体がブレたのを感じた。まだまだ未熟な証拠だ。
しかし破壊力を伴った、木箱程度なら楽に粉砕できる蹴りだ。化け物たちは次々と倒れていく。
「…達人は岩も蹴り砕けるのよね。木箱とか、こいつら程度で慢心は出来ない……」
自分も早くその域に達したい。正直、焦りを感じる。
もう十八歳。この調子だと、あっと言う間に、格闘家としての生涯は終わってしまうだろう。
それに……自分は女だ。どれだけ修行を積んでも、男性には勝てない力の差がある。男には無い女の悩みもある。
果たして自分は格闘家として生きていけるのだろうか。身寄りも何も無い自分が、格闘だけで食べていけるのだろうか。
「あうっ…!」
考え事をしていた隙を突かれ、障害物以下の存在であったゴブリンから手痛い一撃を見舞った。あってはならない失態だった。
「くっ!邪魔だっ!!」
鬱憤を晴らすようにゴブリンを思い切り殴り飛ばす。
見えない恐怖に押し潰されそうであった。
心を落ち着かせるために、鎮静効果のあるラミファの葉を齧る。
「何を迷っていたんだ、あたし…。早くあの子を捜さないと……」
目的はそれだ。森で迷子になっているだろうから、早く見つけるに越したことは無い。
少女を捜すこと、三十分。
「あ……」
依頼人である魔法使いシャランからもらった情報と、外見がほぼ一致する少女が、森の中で眠っていた。
ボロボロの服に、片方しかない髪留め。どれだけ辛い思いをしたのかは、想像に難くない。
格闘家は少女の身体を揺さぶった。腹を空かせているだろうから、携帯用だが食料は多く持ってきている。
「ん……?ひいっ!?」
ばっ、と飛び起きるメイジの少女。
「大丈夫?助けに来たよ」
出来るだけ優しく微笑みかけ、少女の身体を抱きしめる。
「うっ…うぅ…うわああああああんっ!!」
「よしよし、もう大丈夫だからね」
お腹空いてない?と森に自生する苺を手に取る。
「怖かった……怖かったよぉ…!!」
泣きじゃくるメイジ。元気そうで一安心だ。
そんな少女が、格闘家の胸の中で、ニヤリとほくそ笑んだ。
「………"なんてね"」
「……え?」
ガサッ、と草むらを掻き分けて現れたのは、一人の男性。
自分より大分年上…中年の男で、かなりの肥満体の持ち主だ。
「だ、誰っ!?」
身構える格闘家に、男は右腕を軽く挙げた。
その刹那、彼女の身体に異変が起きた。
「な……っ!」
おかしい。変だ。
身体から……力が抜けていく…!
立つこともままならず、やがてくたりとへたり込む格闘家。
「やっ……何、を…」
男はニヤリと笑い、唯一言口にした。
「眠れ」
その言葉が耳を掠めるのを最後に、彼女は意識を手放した…。
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