アラド同人編(おつきさま)

□聖奴隷
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「ふっ……ひっく…うっ、えっく…ぐすっ……うぅ…」
硬い石の床。後ろ手に縛られた少女の目から涙がぽたりと落ち、雫となって跳ねた。
小さな身体を震わせ、助けて、助けて、と呟くように口にする。
「手間取らせやがって、このクソガキどもが…!」
軍服姿の屈強な男たちが周りを取り囲んでいる。
特徴的な腕章は天界を中心に勢力を拡大しているカルテル軍の人間である証だ。
ここは天界の最果て、カルテルのアジトの会議室である。
彼らはカルテルの中でも特異的な立ち位置にいた。
『ランジェルスの犬』……。天界人がこの言葉を聞けば途端に震え上がり、家に閉じ篭ってしまう。
大陸に落ちて尚笑顔を振りまく気丈なガンナー、キリ・ザ・レディーでさえも誰かが『ランジェルスの犬』と一言口にすれば動きを止め、冷や汗を流すほどだ。
戦争は建物を、家畜を、財産を、そして人を破壊するものだ。
一度二度の戦闘で自分が奪ってきたもの、殺してきたものに後悔を覚える者は数知れない。
だが、それが十度、二十度と繰り返されればどうだろう。
後悔は喜びに、罪悪感は快楽に変貌していく者が現れるのだ。
そんな異常者とも呼べる集団で一小隊を作り上げたのが、同じく殺戮による快楽に目覚めた狂気の軍人ゲッセン=グリーガンである。
『ランジェルスの犬』はカルテル上層部の命を待ち、静かに天界の果ての果てで訓練を続けている。
蛇は卵のうちに潰せ。圧倒的な戦闘力での瞬時制圧を恐れたゲント皇都軍は、冒険者を募りゲッセン=グリーガンらの討伐を依頼した。
困窮している皇都が高い報酬を出すのは極めて異例の出来事である。
依頼を請け負った冒険者達は飛行艇マガタに乗り、『ランジェルスの犬』討伐作戦に向かっていったのだが…。

「フハハハハッ!その程度で我等が防御壁が破れたとでも思うたか!!」

彼らの戦闘力は冒険者達の実力を遥に凌ぐものであった。
故郷を守るため奮闘していた女性ガンナーは、ガスマスクで頭を覆っている1分隊長ビット・バスティーのバヨネットに心臓を貫かれ、血を噴出しながら息絶えた。
仲間を殺され後先考えずに暴れ狂っていた鬼剣士は、3分隊長ゲッセン=グリーガンの操る巨大ランドランナーの爆風に巻き込まれて木っ端微塵になった。即死だった。
残されたメイジとプリーストは、降参するしかなかった。
目の前で仲間が二人もむごい殺され方をした。人生経験の浅いメイジは特に怯え、後ろ手に装着された手錠を五月蝿く鳴らしながら取り乱していた。
プリーストも喚きたかった。だが、メイジの混乱を酷くしないのと、二人で…あるいは彼女だけでも逃がすためには冷静でいる必要があった。
「次はオメェに決めたぜェ……ヒヒッ、裂いてやろうか?突いてやろうか?」
バスティがメイジの頬にバヨネットの鈍く光る切っ先をひたひたと当てる。
「ひ、ぃぃ…!…やだ、やだぁぁぁ…」
それだけで震え上がり、細い太ももをカクカクと震わせる。
幼い少女の心は、過度の緊張や精神的ストレスに耐え切れるはずがなかった。
「ヘヘヘッ、ここぁトイレじゃないんだぜ…お嬢ちゃん?」
「無駄に脅すな、その後始末は誰がするんだ?大体いつも言っておるが貴様の作戦は無駄が多すぎるぞ。何人の兵を犠牲にしたのだ!?」
粗相をする彼女を見て粘ついた声で笑うバスティに2分隊長である鉄仮面を嵌めた大男、"爆裂"ジェフが肩を掴んだ。
犬猿の仲である二人。バスティはすいませんね、と上官に適当に返した。…古い思考のガチガチの脳筋め!
「あら…?」
会議室のドアが開き、高い女の声が唐突に聞こえた。
モデル体系の美しい顔立ちをした女だ。
だが、軽くパーマをかけた長い黒髪からは血と硝煙の臭いが立ち込めている。
赤い服は敵の返り血を連想させ、手にしたムチは後に彼らに降りかかるであろう拷問に早く携わりたいと涎を垂らしているかのようだ。
「確か侵入者は二人と聞いたはずだけど…?」
目の前の女に、バスティとジェフが居住まいを正す。この女は彼らより階級が上なのだろう。
「はっ!侵入者四名のうち二名は本部隊と交戦中に死亡!!残り二名が投降したものであります!!」
「こちらの被害は?」
「はっ!死者は1分隊が兵三十名内地雷兵十名突撃兵二十名ッ、負傷者は2分隊副官テューゴン一名のみであります!!なおッ!領地占有率は100%変わらず、本軍前線基地、臨時駐屯地の主だった被害はありませんでしたッ!!」
語気を荒げ戦況を報告するジェフにそう、とだけ言い、女はメイジらに向き直る。
「お初にお目にかかるわね…私は3分副隊長"誘惑の"メリー・ジェーン。よろしくね、坊やたち?」
柔らかな笑みだったが……目は全く笑っていなかった。
「フフ…そっちの女の子は顔真っ青にして震えて……あらあら、お漏らしまでしちゃってるのねぇ…」
舐め回すように少女の体を眺めるメリーの真意が掴めない。死にたくない、生きたいと無様に抗う二人を弄ぼうという腹か。
「ゃ…だぁ……たす…けて………おかぁしゃん…」
蒸発した母親に助けを請う少女。
哀れな彼女に同情するのが普通かもしれないが、カルテルの面々は面白い玩具を見ているかのように笑っていた。
「そんなに助かりたい?もうお姉さんたちに逆らわない?」
艶かしい声で少女の顎を爪弾くメリーに、彼女はコクコクと何度も泣きながら頷いた。
「そう、じゃあ命だけは助けてあげようかしら?…そっちのお兄さんの頑張り次第で、ね?」
つい、とプリーストを見やる。
「さ、その子を連れて行って。貴方たちで"好き"にしていいわよ」
「ひっ!?」
「なっ、や、約束が違うじゃないか!!」
メリーが言うなり、バスティが悦びの声を上げてメイジの両手を拘束する手錠を掴んだ。
「へへ、役得役得!たまにゃあガキを犯すのも悪かねぇなぁ!」
「…本官は結構であります。失礼しました」
ジェフは一度敬礼した後、やや乱暴に扉を閉めた。
「……何だアイツ。まぁいいや…楽しもうぜ、お嬢ちゃん?ヒヒヒッ」
「やだああああ!!やだよぉおおおおっ!!」
喉を嗄らして泣き叫ぶメイジを抱え上げ、バスティも部屋を後にした。
静寂の中、メリーは静かに口を開いた。
「無事に帰すとは言ったけど…貞操なんて知ったこっちゃないわ。あんな小さな子供に私たちが襲われただけでもこっちのプライドはズタズタよ…!乳離れも出来てないようなクソガキがぁっ!!」
先ほどの穏やかな様子とは打って変わって激昂し、机を叩くもすぐに落ち着きを取り戻す。突然の豹変にプリーストも目を白黒させた。
「……ふぅ…ふぅ……怒ると肌によくないわね。さ、行きましょうか、お兄さん?」
メリーは短銃を突きつけ、プリーストを歩かせた。
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