アラド同人編(おつきさま)

□小悪魔陵辱
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大陸から大きく西に行くと、漁業が盛んな町がある。
美しい海には色とりどりの魚が泳ぎ、昼から酒盛りだ。
聖職者プリースト、その二次転職者であるインファイターも人々の笑い声を穏やかな様子で眺めていた。
インファイターとはプリーストの始祖であるミカエラが考案、その後ベオナルが発展させたとされる神格拳を用いるプリーストのことである。
ボクシングの要領で、蹴り技は一切使わず敵を倒す。
彼はここで住み込みで修行を重ね、時々町まで侵攻してくるモンスターを迎撃していた。
この町は平和だった。
そう、『地獄の門』が見つかるまでは…。
最初は、町人が発見したものだった。
「何だこりゃ…?」
突如として出現した奇妙な黒い筒。材質は鉄だろうか。
バチバチと紫電を放つそれは、人々の興味を引き寄せた。
不思議そうに眺める者、近づいて観察する者、何だろうと話し合う者でごった返していた。
インファイターもその群集を後ろから見つめていたが、町人たちの『でかい筒』という言葉に顔色を失った。
野次馬を掻き分け叫ぶ。
「ダメだ!!それに触ってはならない!!」

「ガァハハハハハァッ!!」
「きゃははははっ!!」

二つの笑い声が響いた。
豪快で地響きが起こる程の巨大な笑い声。もう一つは幼い、可愛らしい笑い声だった。
麻逆の声の主たちの共通点は、地獄よりの悪魔であるということ。
「悪魔の眠りを妨げやがって…」
青い毛で覆われた頭部から、赤い角と陰湿な瞳が覗かせる。
毛むくじゃらの頭とは対照的に、つるりとした青い身体にへばりつくはちきれんばかりの筋肉が人々を威圧する。
背が高く、ただ立っているだけでもその存在感は他を圧倒していた。
「あーあ、知ーらないっ。ベイパー様を起こしちゃったなんて…運悪いね、あなたたち♪」
幼女である。あどけない顔立ちに、発達しきっていない身体。
もしかしたら全裸よりも恥ずかしいかもしれないボロボロの服を身に纏い、無い胸を張っている。
手には槍を持っているが、どうにも重そうでふらつき気味だ。
可愛らしい外見だが、ショートカットに隠れた血に飢えた瞳はやはり悪魔であると語っているようであった。

「遅かったか…!!」
インファイターが歯噛みして目の前の悪魔を睨む。
悪魔はインファイターの視線に気付き一瞥するも、ニタァ…と裂けた口を開き、目を点にする町人たちに呼びかけた。
「このベイパー様を呼び出したのはどこのどいつだ?」
答えはない。皆目の前の化け物に言葉を失っている。
「それじゃあ俺を起こした馬鹿が名乗り出るまでちょいと暇つぶしに付き合ってもらおうか!!」
言うなりベイパーと名乗る悪魔は片手をスッと上げる。すると、彼の手の平に空気が凝縮されていく。
「決めた…まずはテメェから蒸し焼きにしてやるぜ!」
「ぎゃああああっ!!」
高圧の水蒸気が一番近くにいた町人の顔を蒸し焼きにした。
音を立てて倒れた男にもう息はない。
悲鳴が上がり、人々は逃げ惑う。
「きゃははっ、弱ーい♪」
町が、一瞬にして"地獄"と化した。
「さぁて次は……」
目に留まったのは、年頃の少女。
「へへ…一緒に遊ぼうぜ姉ちゃ〜ん」
蒸気は見る見るうちにベイパーの手に集まり、球体を形作る。
「あ…あ……あ…」
怯えきった少女はへたり込み、ただ悪魔の一撃を待つのみであった。
「ま、待て!!」
インファイターは堪らず叫んだ。
決して勝てる相手ではないが、これ以上命が蹂躙される様を黙って見るわけにはいかなかった。
「…あん?」
悪魔もその声に応え、蒸気を消した。
「お前を呼んだのは私だ、悪魔よ」
僅かながら体が震えている。ベイパーは敏感にそれを察知しカカカと笑った。
「聖職者様が俺様に何の用だ?まさか悪魔払いしようってか?」
インファイターは答えず、背負った十字架を地面に突き刺した。
そしてミカエラが伝えた通りの構えをとる。これが彼の…インファイターの神撃拳である。
「うあああああっ!!」
「ハッ…ぬるいなァ」
バンッ!インファイターの渾身の一撃はあっけなく、本当にあっけなく片手で止められてしまった。
「オラァッ!!」
インファイターの巨体が吹き飛び、家の壁を粉砕する光景に、ベイパーの回し蹴りの威力が伺える。
「ガァッハハハハハッ!!弱ぇなぁオイ…」
「きゃはっ♪ねぇベイパー様、あたしも遊んでいいですかぁ?」
槍を持ちながらうずうずしている小悪魔アズリネスにベイパーが避けた口を笑みの形にする。
「今のうちに遠くに逃げたほうがいいよー?そうだなぁ…5秒待ったげるね」
にひひ、と可愛らしく笑うも、その表情は獰猛そのものであった。
「せーのっ、それぇっ!小悪魔ブーメラーン♪」
アズリネスが投げた槍は高速で回転し、そのまま家屋の壁を貫いた。
「うぐっ!」
「ぎゃああっ!?」
家の中から悲鳴が聞こえる。ベイパーは腕を組んで笑っていた。
暫くして、血まみれの槍が勢いそのままにアズリネスの手に再び戻ってきた。
「うーん、七人っていったところかなっ?じゃあ次はベイパー様の番ですねっ」
「…少しはうまくなったんだなァ?どれ…じゃあ手加減抜きでやってやるか」
アズリネスから槍を奪い、人の多そうな建物に向かって投げつける。
瞬間、先程より多くの断末魔が二人の悪魔に喝采を浴びせた。
「ざっと十三人ってところかァ?今回も俺の勝ちだな!」
得意げに槍を振り回すベイパーに、ぷぅとむくれるアズリネス。
彼らはゲーム感覚で人を殺していたのだ。
インファイターは気を失いながらも、己の無力さに悔しさを噛み締めていた。

「強く…なってやる……」
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