アラド同人編(おつきさま)

□Seedbed Girls
1ページ/6ページ

アラド大陸の東…"妖精の住む森"エルブンガードのはずれにぽつねんとそびえる洞穴。
そこは洞窟の奥から悲鳴に似た声が耐えないことで『悲鳴窟』と呼ばれている、怪異ある場所。
村人たちが恐れる悲鳴の正体は、かつて使徒と呼ばれた異形の一人『無形のシロコ』が十二年前に葬ったはずの、巨大魔界蟲ヌゴルの鳴き声であった。
ヌゴルの蘇生に、科学者や考古学者たちは様々な憶測を飛ばしあった。
伝説の戦士たち…ヴァンやシラン、アガンゾ、ロクシー、ブワンガが、悪として倒したシロコの憤怒がヌゴルを復活させた、という説。
実はヌゴルは死んではおらず、長い眠りについていただけで、今また活動を再開したという説。
しかし、いくら予想を立てても、百聞は一見にしかず。
考えているだけでは埒が明かない、と帝国が重い腰を上げ、冒険者を募り、悲鳴の洞窟の調査を依頼したのだ。
掲示板を見て、深く考えず承諾したのは、サモナーの少女だった。
ショートカットにした真っ赤なウィンドヘア。
大きくてくりくりした瞳は、光を吸収しキラキラと輝く。
赤いシャツの上に、丈の短い黒のレザーコートを羽織る。
お気に入りらしい黒い縞模様のストッキングは、細身の脚を際立たせている。
腰には召喚士らしく召喚術の秘法が書かれた分厚い本や、それを閉じるための鍵をベルトにさげていた。
ちょっとした肝試し。そんな気分で、悲鳴の洞窟に入ったのは何時間前だろうか。
その表情は、すぐに絶望へと変わっていった……。

悲鳴窟内、最奥。
「ホドルっ!?」
少女の目の前で、ゴブリン戦士ホドルが洞窟の地面に叩きつけられ、己の体重で無残にも圧潰した。
奮戦していた小竜フリートも、巨大な蟲の毒の棘の前には歯が立たず、串刺しとなりあっけない最期を迎えた。
「フリートぉぉっ!!」
瞬く間に二人が倒れ、残るは魔法使いルイーズと、サモナー当人のみだ。
そしてルイーズの魔法もヌゴルの頑丈な皮膚を通すことなく、ダメージを与えることが出来なかった。
「グゥゥゥゥ……グアアアアッ!!」
粘ついた涎を纏いながらサモナー目掛けて突進するヌゴル。彼女を丸呑みにするつもりらしい。
「危ないっ!!」
「きゃあっ!」
とっさの判断で主を突き飛ばしたルイーズが、魔界蟲の邪悪な毒牙に晒された。
「る、ルイーズ…お姉さん……?」
尻餅をついたサモナーの目の前で、ヌゴルに既に半分ほど飲み込まれたルイーズは下半身をばたつかせ必死に脱出しようとしていた。
しかしヌゴルは意に介さずと言った風に、狼が仕留めた獲物に止めを刺すように首を振り回し、勢いをつけて丸呑みにした。
「う、あ……」
ルイーズが……いつも自分を励まし、最前線で戦ってくれたルイーズが、化け物に食べられてしまった。
「うわあああああああっ!!あっ、あああああああああああっ!!」
親友とも呼べた召喚獣たちを一度に失ったサモナーは涙を零し絶叫した。
こんな凄惨な状況に、彼女は耐えられなかった。
一刻も早く逃げたかった。それが最良の手であるし、自身に魔法攻撃の術を持たないサモナーにとっては、逃げる以外の手段は残されていない。
だが、彼らは命を張って、私を守ってくれたのだ。
「みんな………ごめんっ!!」
葛藤の後、武器をかなぐり捨てて、必死に出口に向かい脱兎の如く逃げ出した。
「グゥオオオッ!!」
「ひいっ!?」
それを邪魔するかのように。
ヌゴルの成虫の群れが突如隆起した地面から飛び出したのだ。
その身体は成熟しきっていないのか、先程まで対峙していた巨大ヌゴルに比べると二回りほど小柄で、体色も明るい。
中には今まさに繭を突き破ったばかりらしく、ぬめぬめとした粘液に包まれた個体もいる。
複数の蟲にじぃっと凝視され、足がすくんだサモナーはその場にへたり込んだ。
ずる、ずる、と彼女の背中から嫌な音が聞こえる。
ああ、嫌だ…聞きたくない。
「あ、あ………あぁ……」
恐る恐る振り向くと、ねばねばの涎を垂らした巨大ヌゴルの口が、目の前にまで迫っていた。
「…………ぁかっ…」
何を言うつもりだったのか。
パクパクと口を開閉させたサモナーに一瞬だけ動きを止めたが、それでも勢いを殺さずヌゴルは震えるサモナーの矮躯に食いついた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ