アラド同人編(おつきさま)

□壊された戦姫(レンジャー) 序章〜雷獣〜
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午前二時。補給路テント前森林。
「点呼確認しました。準備完了です」
「了解。じゃあ…突入するわよ」
レンジャーが頷き、部下に指示を飛ばした。

ここは天空の都市、ゲント。
数百年の昔、暴龍王バカルなる使徒が機械革命により死去、死に際の怒りで天界は三つの大陸に分かれてしまった。
その内の一つ『無法地帯』を取り仕切っているのが、反乱組織カルテルである。
カルテルはかつては自由を求め砂風の中をさ迷い歩く誇り高き男たちの集団であった。
だが現在は略奪と殺戮を楽しむ無法者がたむろするようになってしまった。
そして最近となり、新たな資金源や勢力拡大を求め、残りの大陸を支配しようと動き始めたのだ。
彼らは金や甘言を用いて様々な外部の人間を味方につけた。
海で暴れ狂う黒鱗海賊団や、はぐれ者としてのレッテルを貼られ身を寄せ合って暮らしていた超能力集団サイファーなどだ。
中でも危険な人物は、機械工学、遺伝学の科学者としても有名なジゼル博士である。
彼はかの昔バカルを死に追いやった機械革命を起こした七人のマイスターの遺志を継ぐ者の証である『セブンシャーズ』に属していた。
だが、二十歳にもいかない若き天才科学者メルビンが現れ、その席を奪われてしまったのだ。
若き天才ともてはやされ、それを面倒臭そうに跳ね除けるメルビンに、ジゼルのプライドはズタズタだった。
ゲントに強い復讐心を持った彼は、カルテルにとっては最高の人材だった。
ジゼルはカルテル首脳に就任し、人体改造、戦闘用マシン製造を一手に担った。
そんな極悪非道な兵器が眠っているのが、今二人がいる物資補給用施設である。
ここは食料や弾丸など、疲弊しきっているゲント軍から見れば喉から手が出る程に欲しい物が揃っていた。
レンジャーを班長とする先発班の任務は、カルテル軍の補給路を断つと同時に、餓えに苦しむゲントの民のための食料を奪うことだ。

「どこに罠があるかわからないわ。慎重に行動するわよ」
「了解、班長」
全員が暗視ゴーグルをかけ、暗闇の中ゆっくりと前進し、棚の弾丸や食料を最後列の女性のリュックサックに入れていく。
(見張りがいない……どういうことかしら…)
任務遂行が順調すぎる。レンジャーは心の奥底で言い得ぬ不安を感じていた。
その不安は、すぐに的中する結果となった。
暗闇だったテント内に強烈な明かりが灯ったのだ。
「あああああああああっ!!?」
「目がっ!!い…ぎゃああっ!!」
たまたまその瞬間を直視していた数人の隊員が顔を抑え蹲った。
暗視ゴーグルの特製上、強い光をゴーグル越しに覗くと目が眩み、最悪の場合失明してしまう。
彼女達も失明こそ免れたものの、強い光に目をやられてしまったらしい。

「クックック……安い食料で極上のカモが舞い込んで来るとはな」

見つかってしまった。
気がつけばレンジャーの小隊はカルテルの男たちに取り囲まれてしまっていた。
味方は十二名、内負傷者が四名。敵はざっと見てこちらの数倍はいるだろう。
「くっ…!」
一瞬の判断でホルスターからリボルバーを抜き撃つ。
部下達もそれぞれの武器を撃ち放った。
何人かは倒れたようだが、それも一時しのぎにしかならなかった。
その時、部下の一人が催涙弾を投げつけた。
「ぐあっ!!」
「ぐうっ!く、クソが…!」
「今ですっ!!」
カルテルの連中が怯んだ隙に全速力で脇をすり抜ける女性達。
迷路のような補給施設を勘を頼りに走り抜ける。
途中敵に発見され、その度に交戦。徐々に兵力は削がれていった。
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