アラド同人編(おひさま)2

□純愛剣士・初めてのぬくもり
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少女がギルド入りしてから一週間が過ぎた。
彼女…ソードマスターの実力はメンバーの予想以上であった。
どんな強敵でも、彼女の魔手と剣が輝いた瞬間、大地に伏していた。
その桁外れの強さに、僕は勿論、ギルド内の実力者でさえ息を呑んだ。
「いやー、すごいな!俺以上の武器捌きだ!」
「………」
「お、おいっ!待てって!」
しかし、彼女は相変わらず、ギルドに打ち解けようとはしなかった。
魔手について、武器について、自分自身について、これらの質問には一切答えなかった。
ギルドというコミュニティにありながら、自らの殻に閉じ篭る少女。
その様子に、ギルド内では彼女に対する不満が徐々に募っていった。
実力に嫉妬する者、態度に遺憾を示す者、美貌を羨む者など、万別ではあったが、おおむね彼女の存在をよしとはしなかった。
彼女を意図的に無視する者まで現れた。だが彼女はそれを意に介さず、自然体に過ごしていた。それがまた、彼らの怒りを逆撫でしていた。
ギルド全体がぐらつき始めて、更に三日が経過した頃だった。
その日の深夜。僕はたまたま最後の見回りをしていた。
小部屋に、蝋燭が灯っていた。
何だろうと覗いてみると。
「……皆集まったな。話があると言ったが…」
「あの女、ですよね」
ギルドマスターと、その配下…ギルド屈指の実力者五人がテーブルに並んで、何やら覗いていた。
「あの魔手は厄介だ……このままではあの女にギルドそのものを乗っ取られてしまう」
どういうことだろう。僕は気配を殺しながら、彼らの会話を盗み聞くことにした。
「私達としても立場がありません。マスターに賛成ですわ」
あの女…彼女のことだろうか。
「彼女自身はどうなんだ?何も語ろうとはしないが…」
「決行は早いに越したことはありません。明日にでも…」
「ああ……あの女の朝飯にこの薬を混ぜて殺す。屍はその後にでも…俺達で楽しむとしよう」
ギルドマスターが不敵に笑った。
大変だ…。僕はすぐさま自室に戻り、少女を起こした。
「そうか……やはり私は厄介者だったわけだ…」
事情を説明すると、彼女は半ば自嘲気味に言い放った。
「とにかく逃げよう!退路なら僕が確保するから!」
小声で叫んだが、彼女は首を横に振った。
「私の命が狙われてしまった以上、逃亡に加担すれば君にも危険が付きまとう。疫病神に関わったところで、君には一利もないはずだ」
「……僕もこんな腐ったギルド、抜けてやる。仲間を裏切るなんて最低だ!」
僕は思わず彼女の手を握り、駆け出していた。
ひんやりとしていたが、どこか温かみがある、優しい手だった。
「こっちだ!」
雑用係として色々やらされた分、抜け道もよく知っていた。怪我の功名というやつだ。
「ここからどうするつもりだ?私を逃がしたところで、君は…」
「いいから!とにかく走って!」
覚えたての魔法を駆使して、自分達の足を速める。
後ろのほうから叫び声が聞こえてきた。感付かれたか。
「くっ…!」
声が段々近づいてきている。このままでは…。

「…下がっていろ」

透き通るような声が聞こえたかと思った、次の刹那。
「うわああああああっ!?」
「ぎゃああああっ!」
ビュゥオオッ!突風が、追っ手を吹き飛ばした。
銀色の刀が、鞘から抜かれていた。
恐らく剣を振るい、その風圧で突風を巻き起こしたのだろう。
「少しは時間が稼げるはずだ。…安心しろ。加減はしてある」
僕は頷き、再び駆け出した。
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