アラド同人編(おひさま)

□カノジョノキモチ〜First Love〜
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俺が彼女と出会ったのは1年も前の話だ。
その時の俺は、帝国の依頼を受け、ビルマルク帝国試験場へ向かうことになっていた。
ビルマルク帝国試験場。そこは、かつて帝国が動物を使った実験を行い、度重なる改造と遺伝子操作の結果、研究員だけでは制圧できなくなり、その結果汚染された環境下で異常に成長した実験動物たちの王国となって現在に至る。
試験場の王である半機械の体を持つ改造獣『ハイパーメカタウ』の存在は、帝国にとっても大きな痛点だろう。実験動物を自国で管理し切れていないと他の国に知れたら、帝国は他の国から言及されること必至だろう。そうなれば、帝国からすれば未曾有の危機である。
だからその事実が明白となる前に、冒険者たちに報酬と栄誉をエサにメカタウを秘密裏に始末させようというのが、デロス帝国の魂胆だ。
また帝国にとって頭を痛めているのは、帝国の実験動物たちが皆自己修復機能を備えていることだ。
生物兵器として作り上げてきた動物達は、いかなる戦況においても絶対なる環境適応能力と戦闘能力を必要とされていた。
故に破壊されても時間さえあれば何度でも蘇るように設計されていた。それが、仇となったのだ。
メカタウをはじめとする実験動物達が完全に破壊されるその日まで、帝国の冒険者募集は終わらないだろう。
「パートナーが必要だな…」
人為的に進化した動物の蠢く試験場はまさに魔窟。危険極まりないダンジョンだ。
適当な路地を見渡す。腕に自身のありそうな冒険者が数多くたむろっていた。
そこでパートナーを探そうと、屈強な男達に声をかけた。
しかし、ビルマルク帝国試験場に行くとわかると皆目の色を変えて逃げ出すばかりだった。
「参ったな…」
正直一人で行ける自信などないが、帝国の頼みを聞き入れてしまった。こうなったら一人でも行くか…と腹を決めたその時だった。
『どんなダンジョンもお供します―何でも屋―』
と書かれた張り紙を見つけた。
「どんなダンジョンでも…ねぇ…」
ビルマルクと聞いて断られたら諦めるか、と俺はその張り紙に書かれた場所に向かった。
大通りから外れた、人の少ない路地。
見つけたのは一軒家。どこにでもあるような少し傷んだ家屋だった。
家屋の2階部分のベランダに掛かった『何でも屋』と書かれた薄い金属の看板が風にゆらゆら揺られている。間違いはないだろう。
扉を押すと、鍵はかかっていないようで、キィ…と小さな音を立て開いた。
静かな空間。不思議と、居心地がよかった。
「誰だ」
鋭い声が聞こえ、俺は反射的にその声の主の元へ首を傾けた。
少女だった。年はおそらく15〜16歳程度の、だが少女とは思えぬギラギラした、闘争心溢れる目を持ち合わせていた。
引き締まった小柄な体の無数の傷痕が痛々しくも彼女の戦いの軌跡を物語っていた。
「えっと……アンタが何でも屋?」
まだ信じることの出来ない俺は呆けたまま尋ねた。
「あたしの他にここに誰がいるんだ?」
と一蹴された。
「え?あ、ああ。悪い」
彼女の言葉に、彼女を見下していたなと素直に謝った。彼女がどうやら店主らしい。
「いや、いい。気にするな。さて…どこに行くんだ?」
「んー…それなんだが…」
俺はビルマルク帝国の委託書をテーブルに置いた。
「ビルマルクか……」
彼女は少し顔を顰めた。
「ダメか……」
「…お前は張り紙を見たのか?どんなダンジョンもお供しますって書いてあったろう。あたしは約束は守る。お前の行きたいダンジョンに行ってやるさ」
俺が肩を落とすと、彼女はムッとした様に言った。俺よりも明らかに年は下だが、そんな彼女が頼もしく感じた。
「そうか。なら…いくら払えばいい?」
俺は財布を取り出し、いつでも紙幣を並べられるようにした。
「そうだな。場所が場所だからな…3万と言ったところか…」
「3万!?」
思わず叫び声をあげてしまった。
「た、高いか…?」
違う、その逆だ。安すぎる。その5倍は取られてもおかしくないと思っていたのだ。
「いや…安すぎると思うんだが…」
正直に言うと、彼女は驚いたような顔をした。
「え…ほ、本当か?」
「他のところじゃ15万とか20万とかザラだぞ…」
「ま、まあ…久しぶりの依頼だからな、その……さ…サービスしておいてやる。サービスだからな!か、勘違いするなよ!!」
顔を真っ赤にしちゃって、何だか可愛いな、と思いながら俺は使い古した感じのクローを装着する彼女を見つめていた。
「さ…行こうか」
輝く鉄爪を一振り、彼女は玄関の戸を開けた。
その表情は先ほどとは打って変わって凛々しく、強力な助っ人として十分なオーラを身に纏っていた。
そんな彼女と、恋人関係になるなんて、その時の俺には知る由も無かった。
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