アラド同人編(おひさま)

□お兄ちゃん、だーい好きっ!!
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ロード画面を経て、外国人らしき男のアナウンスと共に試合が開始される。
途端、バトメの目つきが変わった。
手に持つパッドがダンスを開始する。
それと同時に画面内のプロレスラーが信じられない動きをした。
牽制を交えつつ跳ぶ俺のキャラを捕まえ地面に叩きつける!
「…はい?」
回避行動を取ったのもつかの間、再び捕まり投げ飛ばされた。
「え?え?」
驚きと疑問の声を上げる俺の隣、バトメはひたすらに無言だった。
青い瞳はしっかりと画面を見据え、わんぱくな金髪ツインテールも今回は大人しく垂れていた。
動くのは指先のみ。
「これだけは使いたくなかったが…」
この格闘ゲームは、体力ゲージとは別の必殺技ゲージを使うことで、強力な超必殺技を使うことができる。
それで逆転しようとしたが。
バトメも寸分違わぬタイミングで連続攻撃を仕掛ける俺のキャラを同じく超必殺技で捕らえ、あっという間にKO勝ちを決めてしまった。
「えー……っと」
言葉が見つからない。
俺は一撃も傷つける事無く負けてしまった。
「ま、まあいいや。次で2連勝すればいいだけの話だ!」
気を取り直し、2戦目へ。
「………」
結果は同じだった。
俺はただあんぐりと口を開いたまま、レスラーが勝利の舞を踊る画面を見つめていた。
今までインターネットでこのゲームの動画は飽きるほど見てきた。バトメの使ったキャラのそれも見たが、今の流れるようなコンボは見たことがない。
「はい、あたしの勝ちね!」
今まで沈黙を守り続けていたバトメが漸く口を開いた。
「どれだけ練習してたんだ?」
悔し紛れに聞いてみる。どうせ死ぬほど練習したんだろう。
「ん?3日くらい?」
「へ?」
あまりにも短い練習期間。俺は素っ頓狂な声を上げてしまった。
「3日前にこのゲーム見つけて、何か強そうなキャラがいたからそれでプレイしてたんだ〜。最初は大変だったんだよ?コマンドとか全然わかんないしさ、練習モードでコマンドを覚えたところから始まったっけなー」
説明書もどこかに消えてしまったゲーム。
コマンドもコンボも自力で発見し、物にしていったわけか。
「セーブデータにお兄ちゃんの名前があったから、多分お兄ちゃんの得意なゲームだったんだろうなーって」
えへへっ、と屈託の無い笑顔。
「そっか……」
才能あるとは言え、一生懸命練習したんだな、と嬉しくなり、俺は妹の頭をぐしぐしと撫でてやった。
バトメはニコニコしながらも、これが勝負だった事を思い出させる一言を発した。
「だけどお兄ちゃん、負けは負けだよ?今日一日、お兄ちゃんはあたしの奴隷!!」
「ど、奴隷ですか……」
びしっ、と指をさされ、思わず敬語になってしまう。
あのはねっ返りのエレならわかるが、純粋無垢なバトメがこんなセリフを言うとは思いもよらなかった。
「じゃーねー…えーっと…」
まず手始めに何をされるのやら。
「…………」
どうやら何も考えていないようだ。
「……お兄ちゃん何したい?」
とうとう奴隷に聞いてしまったよこの主様は。
「ゴロゴロと意味無く怠惰を貪りながら目まぐるしく動く画像に酷使されて疲れた眼球を癒したいね」
「そんなのだめだよ!」
そりゃそうだろうな。
「た、たい…だ?をむさぼりながら、えっと…?めまぐるしく…うごくがぞうに……こく…?」
あえて難しい言い回しにしたからだろう、俺が先程言った言葉をもう一度噛み砕いていたが、絶対意味まではわかっていない。
「要するに何もしたくない」
「そっか!なるほど……って!!」
理解しました!って顔をして、すぐに我に返るバトメ。
「それじゃああたしがご主人様になった意味無いじゃん!!」
「だから、何がしたいんだ?俺に何をさせたいんだよ、ご主人様は」
「え、えっと……じゃあ休憩タイム!!あたしがやりたいこと思いつくまで好きに休んでていいよーっ!!」
言うなり床に座り込んでしまった。
出来ればずっと考え込んでいて欲しいもんだ。
五分位思案すれば何か浮かんでもいいと思うのだが…バトメは俺に背を向け胡坐をかいて必死に脳みそを回転させていた。
まぁそうやってじっくりゆっくり思考を巡らせてくれ。
ちょっと昼寝させてもらうぜ。
そんな事を思いながら、今までの疲れもあってか、机に突っ伏した俺はすぐに睡魔の誘いに乗ることとなった。
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