アラド同人編(おつきさま)

□dark crusader
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そのバトルメイジはこの日も勝ち続けていた。
もう五人連続で相手をしているが、全て無傷で勝利を収めていた。
周りには人だかりが出来、一体この少女を倒せる奴はいるのか?と囁く者もいた。
「今日は絶好調だから仕方ないかもね、でもこんな女の子に負けてるなんて悔しくないの?」
少女の止めの一撃で顎を砕かれ気を失った赤目の鬼剣士『バーサーカー』に笑いかけた。
「あーあ、つまんないなぁ、誰か私をギャフンと言わせてみてよ」
挑発するように群衆に言うも、誰も名乗り出る者はいない。
彼女のその見下した態度に皆腹を立てているが、実力では到底敵わない。
「ふーん。みぃんな弱虫なんだねっ」
そう高らかに笑った瞬間だった。
ゾクッ―と背筋に寒気が走る。
信じられない殺気。
少女が振り向くと、今まで集まっていた人だかりが真っ二つに割れ道を作り、一人の大柄な男を通しているのを見た。
黒い、ひたすらに黒い、衣服というよりは鎧を纏っていると言うべきか。靴からヘルメットにかけて漆黒で、腰まで伸びた赤いロングヘアーが印象的な男。
鎧と同じくらい黒の仮面を被っており、表情が釈然としない。
背中には鋼鉄製らしき大きな十字架。
後光が差している…ということは味方の戦闘支援や傷ついた仲間の治療に特化した聖職者『クルセイダー』だろう。
「支援ばかりで戦わないクルセイダーさんが何の用?私と戦いたいの?」
「………」
クルセイダーは答えず、会場へ続く階段をしっかりとした足取りで上がっていく。
「でもここに上ってきたってことは、私と戦いたいんでしょ?」
「………」
「なんかムカつくなぁ…クルセイダーごときが私に勝てると思ってるの?」
勝ち上がっていくうちに変なプライドも生まれたらしい。
何も言わず、仁王立ちのまま動かないクルセイダーに痺れを切らし、バトルメイジは自慢の魔法、『チェイサー』をぶつける。
轟音と派手な爆発。
誰もがその一撃に崩れたかと思った。
だが。
「え!?」
その煙の中からいきなりクルセイダーが飛び出してきた。
反応に遅れ、彼女の武器である棒を奪われる。
「か、返してよっ!!」
棒は魔法を具現化する装置のようなものだ。棒がなければ―『チェイサー』は生まれない。
大男はその豪腕で彼女の鉄棒をぐにゃりぐにゃりと捻じ曲げた。
クルセイダーは原形を止めなくなった棒を放り投げ、こちらを見つめている。
こいつは…やばい。
「ぼ、棒がなくても、私には武術があるもん!」
目にも留まらぬスピードで少女は男に近づいていく。
近距離での掌底『落花掌』。この距離でまともに当たれば獣人タウですら吹き飛ばす威力だ。
しかし。
ガンッ、と確かな手ごたえだったが、クルセイダーは微動だにせず首を僅かにかしげただけだった。
「嘘…」
自分の技が通じない。
初めてのケースに対策など立てているはずもない。
次の手を必死で考えている間に、男はバトルメイジの胸倉を掴み上げた。
「ぐ…ぅ」
足をばたつかせ、必死に抵抗する。
クルセイダーは少女を持ったまま走り出し、そのまま彼女を壁に叩きつけた。
「っ…」
鮮烈な背中の痛み。目に涙が浮かぶ。
クルセイダーは右手で彼女を壁に固定したまま。
思い切り左拳をバトルメイジの胸に叩き込んだ。
「か…ぁ……ぃ?」
ぐしゃ、と左手が彼女の右胸に陥没する。
今まで彼女の肺を守り続けていた肋骨はあっけなく砕けた。
「い、たぁ…」
遅れてやって来る、地獄のような痛み。
あまりの痛みに叫ぶことすら出来ない。
生物の本能で逃げろと痛みが警告するも。
クルセイダーの右手はしっかりと少女を捕まえて離さない。
恐怖に、苦痛に、必死にみっともなく暴れる少女に。
突然彼は何も言わず抱きしめた。
「…え?」
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