アラド同人編(おつきさま)

□蟲の贄
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「ギチギチギチ……侵入者がゆっくり休息…ねェ…」
「誰だッ!!う…ぅ……!?」
慌てて身を起こすも、立ち眩みを起こし再びへたり込む。
ヒュンヒュンと風を切る音。
また、巨大蜂だ。
しかし今までの蜂とは少し外見が異なっている。
体色が濃く、顔つきも僅かながら違う。
そして尻の先の針は…先ほどの蜂より一回りも大きかった。
「私の子供たちを殺してくれたお礼…ちゃんとしてあげないとねェ」
言うと、人間が立つような形で、二本の後ろ足で砂を踏む。
五月蝿いほどに響いていた羽音が、今は全く聞こえない。
嫌な予感がする。数多くの死線を潜り抜けてきたシラーの勘が、危機感として彼女を逃げるよう警告している。
だが、この目の前の蜂は、彼女をそう易々とは逃がしてくれないだろう。
「そんなふらふらな身体で、このヴェスパー様を倒そうってのかィ?面白い冗談だねェ」
「くっ…!」
動きが早すぎて目視できない…!
動体視力の優れたシーフでさえも捉えきれないスピードで、蜂の親玉・ヴェスパーは動き回る。
「ギチギチギチ、お前…『オンナ』だねェ…?ギチッ、いいこと思いついたわァ……ギチチチチ…」
「だったら…どうしたっ!」
「ッ!?」
シラーは驚異的な速度で跳ね起き、空高く舞い上がる。
「はあああああっ!!」
ヴェスパーに肉薄し、飛び蹴りを放つ。
「うぐ…ゥ!」
「逃がすかっ!!」
体勢を立て直す隙など与えず、強烈な踵落としを叩き込む。
「ギグッ!!」
アクセルストライク。彼女の最強の必殺技だ。
ドシン!重い音と共に地面に叩きつけられるヴェスパー。
彼女の連続する速く重い蹴りを食らって立ち上がったものはいない。
「ギチチチ…」
そう……ただ一匹、ヴェスパーを除いては……
「あぁ痛い…。今のは効いた、効いたよォ…」
「な、何で…!」
甲虫の硬い外皮は、あらゆる攻撃に対して強い防御力を誇る。
銃弾ですら弾くヴェスパーの装甲では、いくらスピードや体重が乗っているとはいえ、所詮華奢な女性の蹴りなど『小蟲の一刺し』にも及ばなかった。
「さぁてさて…今度は私の番かねェ?」
「はあっ…はぁ……!!」
必殺技が通じず、恐怖のあまり脱兎の如く逃げ出すシラー。今の体力では勝ち目が無いと踏んだのだろう。
「無駄無駄ァ…」
鋸状の歯をギチギチと噛み合わせ、追いかけることなく不気味に笑うヴェスパー。
前足を器用に挙げ、爪をカチンと鳴らす。
「3……2……1……」
逃げ切れる。確信したシラーは、おぼつかない足取りで走りつつ、やや安堵の吐息を吐いた。
「Come On!!」
「ひっ!?」
「ハイお嬢さん、お帰りなさぁイ……」
そんな、そんなバカな……!!
遠く遠くに逃げていたはずなのに、今はヴェスパーと自分との距離はほぼゼロである。
ブスッ!
「が…っはぁっ!!」
「逃がさないよォ…ギチチ」
六本の硬い脚に掴まり、尻の先の太い針がシラーの薄い腹に突き刺さる。
まるで短剣で一突きを食らったかのような痛みと衝撃がシラーを襲う。
「ほぉう…私の一刺しで気をやらないあたり…なまじ鍛えてるみたいだねェ?」
ブスッ、ドスッ!
「うぐっ!はぐうっ!!」
更に二回も針による串刺しの洗礼を受け、漸く解放される。
ドサッ。途端に崩れ落ち、砂埃を上げながら音を立てて倒れるシラー。
「あが……はぐ………お…ぉ…」
蜂の毒液が体中をめぐり、ビクビクと体が痙攣するばかりで動くには適わなかった。
「ギチギチ…さてさて、私の子供を殺した報いは……その身体で払ってもらおうかねェ」
「ど…いぅ……」
毒による異常な発汗に目を薄く開くのがやっとな哀れなダークエルフに、ヴェスパーは確かに口を笑みの形にした。
「なぁに…ギチッ、産んでもらうのさ、私の子を…」
蟲が私と交尾をする…!?
ぼんやりした頭でも自分が何をされるのか察知したシラーは毒の巡った身体で必死に後ずさる。無駄な抵抗だと分かっていながらも。
「どこに行くつもりィ?」
「う…わぁっ!!」
シラーを砂地に押し倒し、前足後ろ足を使い四肢を押さえつける。
残った二本の脚で、衣服をがむしゃらに切り裂く。
「いぐっ!…うが…ぁ!」
衣服と共に皮膚も裂け、血が滲み出る。
その痛みはシラーに洩れなく伝わり、失いかけていた意識を無理矢理に覚醒させる。
「あぁっ、忌々しいほどに弱い身体だ……折角衣だけを切り裂こうと優しくしてやってるのに、どうしても外皮も切り裂いてしまう……!」
ずたずたになった衣服。彼女の切り傷だらけになってなお美しい肢体を隠すものは、黒いパンティ以外に何も残ってはいなかった。
「…確か人間の雌は腹の下に子供を守る袋があるそうじゃないか。それを暫く借りるとするかねェ…」
シラーに羞恥を感じさせる暇も与えず、ヴェスパーはギチギチと歯を鳴らす。
邪魔な布切れだ。足の先の爪で彼女の秘部を隠す最後の壁を容易く引き裂いた。
あまり使い込まれていないそれは、肌の色とは対照的に薄いピンク色をしていた。
さあ、あとはこの死に掛けた人間の雌に卵を産みつけてやるだけだ。
ヒュンヒュンヒュン。蟲の羽音が、砂漠の空に不快なアクセントを添えた…。
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