TOV・CP

□夢なんていらない
1ページ/1ページ

 

いつもより少し遅く起きた。

軽く身支度を終えて、相棒を見れば、呆れたような鳴き声を返された。


「遅くて悪かったな」


今日は、テッドに呼ばれていた。

頼みたい事があるとか。

起こしに来なかったという事は、大した用事ではないのだろうか。

それでも、顔は見せなければ。

ユーリはドアを開けた。


「……」


開けたまま、動きを止める。

何故なら、そこにエステルが立っていたのだから。

何か約束をしていたかと、思い出すが、心当たりはない。

見たところ、彼女はずっと立っていたようだ。

声をかけてくれれば良かったのに。

それとも、彼女の声に気づかないほど熟睡していたのか。


「あー……エステル。おはよう」


とりあえず、挨拶してみた。

すると、それを合図にしたように、彼女の瞳から涙が溢れ出す。

ぽろぽろと大粒の雫が、床に跡をつけていく。


「え、エステル!?」


会った途端泣かれるような事はしていないはずだ。

今日は確かに約束をしていなかったし、彼女を傷つけるような言動をした覚えがない。
 
無意識にしていたのなら、救いようがない気がした。


「エステル、入れよ」


やや上擦った声で、彼女を招き入れる。

とりあえず、ゆっくり話をするのが一番だ。

それにしても、自分でも驚くほど、動揺していた。

エステルは何も言わずに部屋に入り、ベッドに座る。

普段と違う空気をラピードも感じ取ったのだろう。

すっと立ち上がり、席を外した。


「……エステル?」


彼女の機嫌を伺うように、そっと名前を呼ぶ。

予想はしていたが、返事がなかった。

未だに止まらぬ涙は、エステルの服を少しずつ濡らしていった。


「オレ、何かしたか?」


その問いに、彼女は否定も肯定もしなかった。

こういう場合、落ち着くまで泣かせればいいのか。

それとも、何も言わずに、抱きしめるべきか。

動揺した頭では、何も考えられない。

どうすればいいのか分からなかったが、とりあえず、タオルを差し出す。

エステルは何も言わずに、ソレを受け取った。

たったそれだけの事だが、ほんの少し落ち着いた。

隣に座り、彼女の口が開くのを待つ事にした。


「……」

「ん?」
 
「夢で、ユーリに大嫌いって言われたんです」


ずっと黙っていたエステルが、聞き取れないほどの小さな声で言った。


「え?」

「……怖かったんです」


止まりかけていた涙が再び溢れ出す。


「怖かったんです、ユーリに嫌いだって言われる事が!!」


今度は何も悩まずに、彼女を抱きしめた。


「ユー……リ?」

「ただの夢だろ」

「でも……!」

「なんなら、今夜一緒に寝てやろうか?」


そう言えば、勢いよくユーリから離れた。

突き飛ばす勢いで。


「だ、大丈夫です!!」

「残念」

「何がです!?」


照れ隠しからか、怒鳴るエステルは、普段見ない姿で、可愛い。

もう大丈夫だろうな、と思える。


「いつまでも暗いカオしてたら、みんなが心配するぞ」

「……はい」

「あのな、エステル。オレはお前に「嫌いって言え」とか言われても、絶対に言わないからな」

「……」

「信じられないか?」

「……いえ、信じます。ユーリの言葉ですから」


その微笑みは、ユーリが好きなエステルの顔。


「安心したら、腹減ったんじゃねぇの?」

「う……」
 
「一緒に何か食いに行こうぜ」


手を差し出せば、迷う事なくエステルは握ってくれた。






夢なんていらない

貴方がここにいるのだから






E N D



2009/05/16
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ