TOV・CP

□姫君と騎士
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「フレン、匿って下さい!」


いつもとは天と地ほどの差がある。

ノックもなく、エステリーゼはフレンの部屋に飛び込んできた。

荒い呼吸のまま、フレンの腕を掴み、彼の顔を見上げる。


「お願いします、助けて下さい!」

「あの……事情がよく分からないのですが」

「フレン、お願いします」


すがるような瞳に勝てる自信はない。


「エステリーゼ様は、ここに来ていらっしゃらない。それでよろしいですか?」

「はい」


エステリーゼは安堵の笑みを見せ、家具の影に隠れた。

一体、何があったのだろう。

思考はそれに奪われ、手元の本はただの景色に変わっていた。

その時、少し乱暴なノックが聞こえた。


「フレン、いるか?」


声の主は、よく知る人物のもの。

すぐに扉に近づき、開ける。


「ユーリ?」

「よぉ。ここにエステル来てねぇか?」


エステリーゼが逃げていた相手はユーリなのだろうか。

約束した通りの言葉をフレンは言った。


「エステリーゼ様は来ていないよ」

「そっか。邪魔して悪かったな」
 
「いや」


すぐにその場を立ち去ろうとするユーリ。

数歩進んで振り返る。


「もしエステルが来たら、『悪かった』って言っといてくれ。ついでに、頭でも撫でてやってくれよ」


おそらく彼は気づいていただろう。

彼女がこの部屋にいる事を。

だが、フレンはそれに気づかないフリをして頷いた。


「分かった。伝えておくよ」

「助かる。じゃあな」


手を振り、歩いていくユーリを暫く見送った後で、扉を閉めた。


「フレン、ありがとうございました」


頭を下げるエステリーゼに、慌てる。


「私は何も……」

「いえ。助かりました」

「ユーリから伝言です。『悪かった』だそうです」


エステリーゼは頬を膨らませ、そのままため息をついた。

どこか落ち込んだ様子のエステリーゼに、ユーリの言葉が浮かんだ。

何度か躊躇を繰り返す右手。


「エステリーゼ様、失礼します」

「はい?」


ぎこちない手付きで、フレンはエステリーゼの頭を撫でた。

ふわふわの柔らかい髪を痛めないように、そっと。


「フレン、どうしたんです?」
 
「あ、すみません!」


思いの外心地よくて、ずっと触れていた手を慌てて退ける。

エステリーゼは、動揺し、慌てて距離を取るフレンの姿に、キョトンとする。

何だか恥ずかしくて、フレンは視線を落とした。


「……すみません」

「どうして謝るんです? わたし、嫌だと思っていませんよ?」

「いえ、それでも……」

「命令です。謝らないでください」


そう言われれば、仕方がない。

フレンは笑顔を浮かべ、「はい」と伝えた。


「一体、ユーリ達と何があったのですか?」


そう尋ねれば、ピシリと彼女は石になった。

触れてはならない話題だったらしい。


「エステリーゼ様、お茶はいかがですか?」


今更ながらそう言えば、可憐な笑顔を返してくれた。

鼓動が速まり、熱が集まる。


「フレンも付き合ってくださいね」

「分かりました」


彼女の視線を受けながら、フレンはティーセットを用意する。
 
何があったかは分からないが、彼女をここへ連れて来てくれた親友に、感謝しながら。






姫君と騎士

近くて遠い、
今の二人。









E N D



2009/05/18
 

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