TOV・CP

□例えば誰かに恋をして、孤独を知る
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すっかり暗くなった空の下、ほんのり灯りのついた部屋にリタはいた。


「はぁ……」


何度目のため息だろう。

膝に乗っている本は、半時間ほど前から進んでいない。

ふと気がつくと、人差し指が机やら本やらを不規則に叩いている。

苛立っている自分に気付くと、余計にイライラした。

思考が乱され、心臓がうるさすぎて、口が渇く。

慣れない感情に、癇癪を起こしてしまいそうになる。

何度頭を振っても浮かんでくる顔は、消えてくれそうにない。


「はぁ……」


またため息。

無理にでも切り替えようと、文字に集中する努力をした。

……無駄だったが。

本を諦め、窓に近づく。

夕方の空は夜へと姿を変え、星が時を刻むように瞬いている。


「リタ?」


ドアが開き、名前を呼ばれた。

先ほどから、彼女の時間を奪っている“彼”に。


「あんた、帰ってきてたんだ」

「何だよ、その言い方」
 
「別にー……」


可愛くないのは、十分理解している。

だが、可愛い反応なんてどうしたらいいのか分からなかった。

ユーリは何も言わずに、リタの側に立つ。


「寂しかったのか?」

「なっ……何言ってんのよ!」


あやすように頭を撫でる大きな手を払い落とす。

何を動揺しているんだと自分を叱りたくなった。


「ごめん」

「いや。オレの方こそ悪かったな」


謝らないで欲しいのに。

ぐちゃぐちゃに糸が絡まったような自分の心。

ただ、その不快感を拭って欲しい。


「……ユーリ」

「ん?」

「あたしって、子どもだったのね」

「……」


何も返って来なかったから、彼の表情をこっそり覗く。

今まで見た事がないような、驚愕を映していた。


「何よ」

「あ、いや……まさか、リタがそんな事を言うなんて思わなかったからさ」

「悪かったわね」
 
「悪くはねぇよ」


何を嬉しそうな顔をしているのだろう。

反射的にファイアボールの詠唱を口走った。

途中で止めたが。


「で、何で子どもだったとか思ったんだよ」


答えなければ、ならないのだろうか。

自分の弱みを見せるようで躊躇う。


「……一人だと、寂しいのよ。あんたが言う通り」


恥ずかしい。

恥ずかしい。

自分は今何を口にした?

頭でリピートすれば、顔に熱が集まり耐えられなくなった。


「ああ、もう! あんたのせいで、あたし変になったじゃない!」

「そんな事言われてもな……」

「だから、あたしに構わないで!!」


叫んだら、直後の静寂に首を絞められる。

分かっているくせに。

側にいてくれないと、余計に意識してしまう事を。

リタは自分の靴を睨んだ。


「リタ」

「……何」

「寂しいなら、いつでも言えよ。話相手くらいなら、出来るからさ」

「……」


ユーリはそれだけ言うと、リタに背を向けた。
 
歩いて行く気配に顔を上げる。


「ユーリ!」

「ん?」

「あ、ありがとう……」


段々小さくなっていく。

聞こえただろうか。

ユーリは手をひらひらと振って、部屋を出て行った。

飯だぞと一言残して。


「……」


はぁ、と小さく、勢いよく息を吐き出した。

先ほどまで心を支配していた、様々な感情が消えていて、それが嘘だったように、穏やかな気持ちだ。

安心すると同時に、自分のすべてを“アイツ”に握られているようで、何だか悔しい。

部屋を照らす灯りを消す。

暗い室内をくるりと見回した後で、リタは部屋を出た。






例えば誰かに恋をして、孤独を知る

寂しい。寂しい。
と叫ぶウルサイ心。









E N D



2009/05/24

 

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