TOV・CP

□束の間の友人
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「ユーリなら、いないわよ」


まだ新しい匂いのする宿屋のロビー。

そこのソファに座っていた『天才魔導士』の名を持つ彼女が、フレンを見つけるとそう言った。


「まだ僕は何も……」

「あんたの用事は、だいたいがあいつ絡みでしょ」

「……」


否定出来ない。

確かに、フレンがこうやって彼らに会いに来る時は、たいていユーリかエステリーゼに用事がある時だから。

そして、今回も彼女の言う通り、ユーリに相談したい事があったのだ。


「いないって……。ユーリはどこに行ったんだい?」

「さあね。あたしは保護者じゃないから」


『天才魔導士』……リタ・モルディオは、本から目をはなさずに、そう言った。

フレンに興味がないのか、本の方が興味深いのか。

だが、言葉を返してくれるので、助かる。


「そうか。ありがとう」


急ぐ用事ではない。
 
出直そうと彼女に背を向けて、扉に向かう。


「待ちなさいよ」

「え?」

「どこ行ったかなんて知らないけど、すぐに帰るって言ってたわよ。そこで待ってたら?」

「……分かった」


彼女の邪魔にならないように、少し離れた所に座る。

聞こえるのは、カチカチという時計の秒針の音だけ。

二人の間に言葉はなかった。


「ねぇ」

「ん?」

「何か話しなさいよ」

「君の邪魔になるんじゃ……」
 

リタは本を閉じて、フレンの方を向いた。

話を聞く体勢をとられても、何を話していいのか分からない。


「あんたといる時のあいつ、ちょっと雰囲気違うわよね」


話題に困っていたからか、リタが話しかけてきた。


「そうかな。僕は君たちといる時のユーリをよく知らないから」

「……そうね。けど、やっぱりあんたは、あいつの甘えられる相手なんだ」


甘えられた記憶はないが、そう見えるのだろうか。


「君が甘えられる相手はいるのかい?」

「さあね〜」


曖昧に笑った少女は、年相応に見えた。






束の間の友人








E N D



2009/06/08







◆おまけ◆


「ユーリ、どうしたんです?」
 
「あ、エステル。いやぁ、フレンが来てんだけどさ」

「フレンが?」

「何か、不思議な感じなんだよな」


エステルはユーリが指差す方を覗き込む。

何を話しているのか分からないが、フレンとリタが何やら楽しそうに会話している。


「仲良くなったんですね」

「だろうな。邪魔しちまうけど、行くか。あいつが用あんの、多分、オレかお前だから」

「はいっ」


 

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