TOS-R・CP

□雪に生きる彼女
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『フラノールに行きたい』


彼女がそう言ったのは、突然だった。

いつもなら、そんな事を言わずに、一人で行ってしまうのに。

だから、返事が遅れた。


『……デクス?』

『あ、ああ。行こうか!』






雪を纏う異常が消えたいつものフラノール。

吐く息は白く、通り過ぎていく風は少し痛い。

ここに来てから、アリスは一言も喋らない。

何度か話しかけたが、一切返事はなかった。

だから、今二人の間に言葉は存在しない。

その微妙な距離が、この場所よりも冷たくて痛かった。


「アリスちゃん?」


真白い雪がうっすらと頭や肩に積もっている。

寒いだろうに、彼女は薄着のままだ。

何も感じていないように、ぼんやりと遠くを見ている。


「アリスちゃん」


返事をしてくれない事など少なくない。

けれど、いつもと違う空気が、不安を駆り立てる。

雪と共に消えてしまいそうだ。

しっかりと雪を踏み締め、彼女に近付く。
 
怒鳴られようが、殴られようが、その時は、それしか思いつかなかった。

デクスは、小さな体を抱き締めた。

予想通り冷えていたが、まだ残る温もりに安心した自分がいた。

アリスはここにいる。


「……デクス」

「アリスちゃん、寒くない? 暖かい部屋に行こう? 何か飲む?」

「ウルサい。喋るなら、近付かないで」


抱き締めた事には、触れなかった。

拘束を振りほどこうともせず、一言発したまま、黙ってしまった。

彼女の気持ちを読み取ろうと、横顔を覗く。

寒さのせいか、赤く染まった頬。

そっと口付けしたくなったのは、内緒だ。

そこまで踏み込めば、多分戻れなくなる。


「デクス」

「何!?」

「臭い」

「えっ!?」

「ソレ、やめてくれなきゃ、ココに埋めて帰る」

「えぇっ!?」


アリスはどこか嘲りに似た、けれど楽しそうな笑みを浮かべながら、歩き出す。

慌ててその背中を追いかけようとするが、雪に足をとられて転んだ。

派手に。
 
何だかカッコ悪くて、なかなか起き上がれない。


「そんなに雪が好きなら、結婚しちゃえば?」


降って来た言葉は、雪よりも冷たい。

けれど、自分に差し出された小さな手。


「アリスちゃん!?」

「自分で起きるなら、さっさと起きて。デクスのせいで、アリスちゃん変に目立ってるから」


触れた手は、冷たくて暖かかった。






雪に生きる彼女

オレは、どんなキミだって、守るよ。








E N D



2009/04/04



***

キャラ違って、ゴメンナサイ。
難しかった。

 

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