TOS-R・CP

□死んでもなお美しい世界
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この世界にだって、綺麗な場所がたくさんある。


それなのに、醜い部分ばかりを見つけてしまうのは、自分が『汚い』からだろうか。






アリスは自室で何度もため息をついた。

思うように進まない現実。

……現実が思い通りになった例がない。

ため息で首を絞められる不可解な錯覚にさえ、囚われる。



(疲れてるだけよ)



自分がこんなおかしな事を考えているのは、ただ疲労が蓄積された脳が間違った信号を送るせい。

イライラするのは、よく分からない自分の感情に。

テーブルの上の白い花瓶には、デクスに押し付けられた赤い花。

ヒラリと一枚花弁が散った。

何故だか分からないが、無性にあの顔を見たくなった。

今までこんな事はなかった。

とにかく落ち着かない。



アリスは部屋を飛び出した。

走りながら、無意識に探す。

いつもなら、視界に入れたくないほど鬱陶しい彼の姿を。


「デクッ……」


ようやく見つけた彼を八つ当たりのように呼びかけて、止めた。
 
ああ見えて、彼は工作班のリーダーだ。

部下に指示を出しているその姿は真剣で、初対面の人のような違和感を感じた。

話を聞いている部下の半分が女性である事も、アリスの感情を逆撫でした原因だが。

愛用の鞭をしっかり握る。

ここ周辺の物をすべて破壊したい衝動に駆られた。

大人げないと、デクスごときに体力を使うのは勿体無いと、叱責する。

が、黒い靄は心に絡みついて離れない。

思い切り振り上げた手を、重力に苛立ちをプラスして下ろした。


「アリスちゃん!!」


掴まれた手首。

勢いを持った鞭は、デクスを直撃した。

彼が止めなければ、アリス自身を傷つけていたのだが。


「……何?」

「それは、こっちの台詞だよ。アリスちゃん、何をしようとしてたんだ?」


デクスの手を振り払い、彼を睨む。

が、鋭い瞳に負けてしまいそうになった。



(デクスのくせに……)



「アリスちゃん」
 
「別に何もしてないわよ。ただ、ちょっとイライラしただけ」


思いの外素直に。

けれど、曖昧に濁して答えた。

それで満足したのか分からないが、デクスはアリスの手を放した。


「アリスちゃん」

「何よ。何回も名前呼ばないで」

「そんな悲しそうな顔をしないで」

「はぁ?」


悲しそうな顔?

アリスには、意味の分からない事。

悲しい事がないのに、何故そんな顔をしなければならないのだ。


「何言ってるの」

「自覚ないんだ」

「だから」

「アリスちゃんはさ、アリスちゃんが思ってるより、表情に出てるよ」

「うるさいうるさいうるさい」


デクスの言葉一つ一つが、鬱陶しい。

顔を見たいなどと思った少し前の自分を呪いたくなった。


「デクス」

「何?」

「奢りなさい」

「うん!」


歩き始めるアリスの後ろを犬のようについてくるデクス。

何で、こんなヤツに……と思いながらも、凍りかけた自分の心は、素直に反応した。


 
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