TOS-R・CP

□優しい幻想に絞め殺される
1ページ/1ページ

 

「エミル〜!」


エミルの右腕にギュッと抱きつくマルタ。

その勢いに倒れそうになる。


「ちょっと、マルタ……」

「何?」


エミルの言葉を期待してか、マルタは瞳を輝かせた。

その瞳に一瞬、息が詰まる。

彼女を喜ばせられそうな言葉は、まだよく分からない。


「エミル?」

「あ、ごめん」

「何で謝るの?」


首を傾げて、大きな青の瞳にエミルを映した。

彼は大きく頭を振る。

けれど、その度になけなしの自信を振り捨てている気になった。


「元気ないね。疲れた?」

「そんな事ないよ。早くコアを集めなきゃ、ね?」

「そうだけど……」


マルタは瞳を伏せた。

小さな罪悪感が胸を刺す。

彼女にこんな顔をさせたくない。

それなのに……。

自分はなんと不器用なのだろう。


「ごめん、マルタ」

「どうしてエミルが謝るの? エミルは正しい事を言っただけでしょ」

「……そうじゃなくて」


上手い言葉が浮かばない。

何をどう言えば、自分の心を伝えられるのだろう。
 
ぐちゃぐちゃに乱れた、自分でさえもよく分からないこの気持ちを。


「エミル」


マルタは優しく名前を呼び、彼の両手を包み込むように握った。


「……マルタ?」

「ごめんね、エミル。私、焦りすぎてたみたい」

「……」

「大丈夫。エミルはエミルだから」


眩しい笑顔で無敵の呪文。

優しくて、すごく残酷な彼女。


「ありがとう、マルタ」


上手く笑う事は出来ただろうか。

マルタの瞳を見れば、一目瞭然で。


「……ご」


癖になっている謝罪の言葉が飛び出しかけた。

マルタの人差し指が、それを止める。


「エミルは謝らなくていいの。ね?」

「でも……」

「じゃあ、こうしよっか」


マルタは『ナイスアイディアだ!』と瞳を輝かせる。


「エミルが謝ったら、私の事好きって言って?」

「ええぇぇっ!?」

「何よ、嫌なの?」
 
「そんな事は……。う、うん。分かった」


きっかけはソレでも、彼女を喜ばせる言葉が言えそうだ。

だから、頷いた。


「エミル、大好きだよ!」


真っ直ぐで、だけど逸れた告白。

彼女の想いに、笑顔で答えられる日は来るのだろうか。






優しい幻想に絞め殺される

彼女が好きなのは、僕じゃない。








E N D



2009/09/01
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ