ギャグ

□呪いの手形
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「ルキウス……何やってんだ?」

「呪いの手形」

「は?」


先ほどから背中にくっついていた弟は、謎の言葉を発して離れた。


「何だ、それ」

「カイウス、背中に黒い手形が」

「……おい」

「イカスミだから、大丈夫」

「何が大丈夫だ!!」


親指を立てそう言うルキウスに、思わず突っ込んだ。


「どうすんだよ、コレ……」

「カイウス?」


言葉の途中で止まってしまった彼を心配するルビア。

カイウスは口を押さえ、青ざめている。

気分が悪くなったのだろうか。

駆け寄ろうとしたルビアを、手を前に出す事で制止した。


「カイウス」


もう一度名前を呼ぶが、反応らしい物はない。


「ルキウス、一体何したの」

「呪いの手形」


先ほどと同じ回答。

それは、答えになっていない。


「そうじゃなくて! 明らかにカイウスの様子がおかしいでしょ」

「兄さんは元からおかしいけど?」

「確かにね……じゃなくて!」


ノリツッコミをしてしまった。

今まで微笑ましく状況を見守っていた三人が、ようやくここでその輪に加わる。
 

「ねえ、ルキウス。普段からおかしなカイウスがいつも以上に変なのはどうして?」


理由を聞き出そうとしている姿勢はわかる。

だが、ものすごく失礼な言い方をしていることに、アーリア自身気づいていないだろう。

フォレストの視線を感じたティルキスは、肩を竦めた。


「呪いの手形だよ」


何度も繰り返される言葉。

それは何か意味があるのだろうか。


「呪いの手形か……。フォレスト、何か知っているか?」

「残念ながら、何も」

「呪いの手形を知らない?」


ルキウスはショックを受けた様子で、その場へ座り込んだ。

へなへなと力ないその姿に、ルビアが心配して近づく。



(まったく、この兄弟は!!)



とか思っていない。多分。


「ねぇ、そんなに有名な物なの?」

「異端審問官内で、最近流行っているんだ」

「……(何を流行らせているのよ。異端審問官は)」


気がつけば、カイウスは今にも泣き出しそうなほど、瞳に雫を溜めていた。

一体何事だと全員が焦った。

「どこか痛いのか?」とか「何があったのか?」とか、口々に尋ねるがカイウスは頭を振るだけだった。
 

「オレ……」


口を開いたカイウスは、震える声で言葉を紡いだ。


「呪われたみたいだぴょん」

『ぴょん!?』


大きな声がピタリと揃った。

それに驚いた鳥たちが、一斉に空へ飛び立つ。

エコーがかかったように響いた声が消えると、辺りは静寂に包まれた。


「だから、話したくなかったぴょん。けど、このままじゃ呪いに殺されるような気がしたぴょん」


真面目な……泣き出しそうな顔で、語尾がぴょん。

ニャーとかキュとかですのではなく、ぴょん。

そこが突っ込みたい。

思うだけで、誰もそれを口にしなかった。


「あ、あのね、カイウス」


このまま1日が終わってしまうかに思えた空気。

勇気を出したルビアが、何とか声をかける。

じっと見つめてくる瞳は、いつもと違う色を見せた。


「あ、あのね、あたし達どうしたら……」

「とりあえず、笑うのは止めろぴょん」


我慢できずに吹き出したティルキスを、アーリアとフォレストが息ぴったりなコンビネーションで、ぶっ飛ばした。

アーリアはともかく、フォレストに何が……。


「兄さん、語尾がぴょんとか超ウケるんですけどー」
 
「ルキウスの棒読み具合が、逆に面白いわよ」



この場でまともに突っ込む人物は、ルビアだけだったようだ。


「こうなったら……!」


カイウスはパン作りの最中だったその手で、ルキウスの背に触れた。

真っ白な手形がついた。


「……兄さん、何してるみょろ」

『みょろ!?』


またしても皆の声が揃った。

今なら、ムカデ競争で優勝できるような気がした。

あくまで、気分だけ。


「こうなったら、最後の手段みょろ」


ルキウスは墨がたっぷり入ったバケツに手を突っ込んだ。

その後の行動は読める。

だから。


「テンペストテンペストテンペストテ(以下略)」


暴走したアーリアを止めるのはティルキスの役目で、フォレストは文献を調べるとその場を逃げ、カイウスとルビアは睨み合ったまま、動かなかった。






呪いの手形

それはまるで、伝染病。






E N D



2010/02/26



***

テンペストに詳しくなくても、書いてしまう……。
パーティーメンバー好きなんです。(ほとんど知らないクセに)



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